真空管アンプ聴き比べ

雨後の竹の子のように、次々と真空管アンプが発売されています。何故、今更一度切り捨てられた技術である「真空管アンプ」が生産されたり、挙げ句の果ては「復刻」されたりするのでしょう。それは「音質的に魅力的である」ことに他なりません。
しかし、「音質的に魅力的」であることは、「音楽を楽しむためにはかえって有害」であったり、「特定のジャンルのソフトしか上手く鳴らせない」などの弊害を生むことが多々あります。そこで、4種類の真空管アンプを「公平」に試聴いただいてアンケートにご協力いただきました結果を報告させていただこうと思います。

比較のポイント

  1. 価格と音質は比例するか?
  2. 方式(シングル・プッシュ)と音質に関連はあるか?
  3. 使用真空管と音質に関連はあるか?

使用機材

  • スピーカー:タンノイ キングダム15 発売時定価 2,400,000円
  • CDトランスポート:エソテリック P-0 発売時定価 1,200,000円
  • DAコンバータ:エアボウ DAC-1A 発売時定価 290,000円

※今回、イオンツィーターなどの補助スピーカーは使用していません。

比較しようとするアンプ

EAR 859

5極管EL519をクラスAエンハンスド・トライオード接続にて使用した「シングル」アンプ。

  • 出力 13W × 2
  • 周波数特性 20Hz-20KHz (±0.5dB)
  • 発売時定価 ¥448,000

EAR V20

出力段に、傍熱3極管ECC83(12AX7)をChあたり10本使用して、出力20Wを得ている前衛的真空管アンプ。

  • 出力 20W × 2
  • 周波数特性 10Hz-100KHz (±0.5dB)
  • 発売時定価 ¥498,000

ROGERS E20a TUNED BY IPPINKAN

ROGERS/E20aをベースに、電解コンデンサー・カップリングコンデンサー・真空管を「全数交換」してチューンナップされた逸品館オリジナルアンプ。出力管は6L6GのプッシュプルA級増幅。

  • 出力 18W × 2
  • 周波数特性 20Hz-20KHz (±0.5dB)
  • 発売時定価 ¥290,000

EAR 861

EAR 834L

861はパワーアンプ、出力管はEL519のプッシュプル。834LはECC83とECC82を使用したラインレベル・プリアンプ。

  • 出力 32W × 2 (64Wモノラル)
  • 周波数特性 20Hz-20KHz (±0.5dB)
  • 発売時定価 EAR 861 ¥588,000/EAR 834L 発売時定価 ¥198,000

比較試聴に用いたソフトとアンケート結果

試聴に先立って、各アンプの出力を同一に設定(CD最大音量時に6W)。すべてのアンプは前日より通電し、十分ヒートアップされた状態で試聴開始しました。

J.S.BACH:BWV1001-1006
NATHAN MILSTEIN

バイオリンのソロ。演奏と録音が素晴らしく、バイオリンから直接耳に届く音とホールの残響音の区別がハッキリとできるかを聞き取るのが狙い。
アンプの立ち上がりが悪いと、バイオリンに冴えがなくなり、楽器の音が混濁してしまう。

機種 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R 合計 平均
859 7 8 ND 7 8 7 8 10 7 ND 8 7 8 7 5 7 9 7 120 7.5
V20 7 8 ND 6 7 9 5 10 9 ND 8 9 8 8 7 5 7 8 121 7.6
E20a 7 10 ND 7 5 7 9 9 8 ND 9 10 9 7.5 6 5 8 9 125.5 7.8
834L+861 7.5 9 ND 8 10 10 7 8 9 ND 10 9 8 9 8 9 10 7 138.5 8.7

結果:キングダム15との組み合わせでは、[834L+861が平均的に点数が高く」、音質的に優位だと認められたようです。
他の3機種の製品については好みの差程度の差であると判断できそうです。

ANTON BRUCKNER:No.7
MUSSORGSKY:展覧会の絵
SERGIU CELIBIDACHE

「海賊版/オーディ・オール/AUD-7009-10」・2枚組の内、「展覧会の絵/第一楽章」を試聴しました。
低音から高音、ピアニッシモからフォルテまで非常にレンジが広く、アンプの基本的性能を聞き分けることができます。

機種 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R 合計 平均
859 7.5 8 ND 6 9 6 5 10 8 ND 7 8 9 8 4 9 9 8.5 122 7.6
V20 7 8 ND 5 6 8 8 10 9 ND 9 10 8 9 7 4 6 8 122 7.6
E20a 7 10 ND 6 8 7 6 8 9 ND 8 9 8 7 4 5 8 9 119 7.4
834L+861 7.5 8 ND 7 9 9 7 9 8 ND 10 9 8 9 5 7 10 7 129.5 8.1

結果:交響曲でも、[834L+861の平均点が高く]バイオリン・ソナタのテスト結果とほぼ同じ傾向となりました。

CDのフォーマットには一切の変更なしに、「マスターテープ再生機器やケーブル、CDプレス機器」の品質にこだわって高音質化をはかったCDソフト。
楽器にマイクを近接させて「明瞭度」を高め、「ミキサーで音場を作り」マルチマイク録音されています。今回は、一曲目を試聴しました。
各アンプの音の癖が、楽器の音にそのまま反映されるため、アンプの音作りを聞き分けることができるはずです。

機種 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R 合計 平均
859 7 8 6 9 6 8 6 8 7 7 8 10 9 7.5 4 5 8 6 129.5 7.2
V20 7.5 7 6.5 7 8 9 8 9 10 8 10 8 8 8 8 7 8 9 146 8.1
E20a 7 10 7 6 10 7 7 9 9 8 9 9 8 8 5 9 8 7 143 7.
834L+861 7.5 10 8 8 8 8 9 8 8 8 9 10 9 9 6 9 10 8 152.5 8.5

結果:このテストでは[859]の点数が低くなりましたが、他のアンプと比べて中・低域の厚み(シングルアンプでは限界)が不足した結果だと思われます。サックスの厚みが他の3機種より寂しかったように感じました。


A Song for You
Chie Ayado
自主制作盤に近いJAZZヴォーカル。録音機材もプアで音質も褒められたものではありませんが、「奏者のハート」が熱く聞こえてきます。
「録音の善し悪し」による「音の善し悪し」ではなく、アンプの持つ「JAZZ的な音楽表現力」を聞き分けるのが目的です。

機種 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R 合計 平均
859 9.5 8 6.5 8 8 8 5 9 8 7.5 8 9 9 8 4 7 10 8 140.5 7.8
V20 9.5 10 7 6 6 9 6 9 9 9 9 8 8 7 6.5 9 6 7 141 7.8
E20a 7 9 8 6 9 6 7 9 10 8 10 9 8 8 7 7 7 9 144 8.0
834L+861 8 8 8.5 7 8 8 10 8 8 7 8 10 9 9 5 9 9 7 146.5 8.1

結果:今まで最も高得点をマークしている[834L+861]と[E20a]が、ほぼ同等の評価を得ています。もちろん、他の2機種もそれに劣らない得点をマークしています。E20aが高音質なパーツを使用していること、「音楽の躍動感」を重視して音造りをを行った結果ではないでしょうか。


TITANIC
ORIGINAL SOUND TRACK

アンプの「歪み」が大きければ「音が変わって聞こえる」ため、「アンプの物理特性」が、「音楽性」に反映され易いソフト。
一曲目を試聴に用いました。

機種 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R 合計 平均
859 7 9 5 6 8 ND 6 8 8 8 8 10 8 8 6 7 ND ND 112 7.5
V20 7.5 9 5 7 6 ND 5 8 9 9 9 8 8 9 7 5 ND ND 111.5 7.4
E20a 7 10 7 7 7 ND 7 9 9 9.5 10 9 9 9 7 9 ND ND 125.5 8.4
834L+861 8 10 8.5 8 9 ND 9 8 10 9 10 10 8 9.5 6 9 ND ND 132 8.8

結果:ここでも、[834L+861]と「E20a]が高得点をマークしています。個人的な音の好みが反映しにくいテストで高得点をマークした「この2機種のアンプ」が基本に優れていると考えられそうです。V20の得点がそれらに比べて低いのは「個性的な音のアンプ」であるためでしょう。

各アンプの音質評価(文章による)

A)

  • 859:音がきれい。
  • V20:859に比べて明るい音。
  • E20a:デザインがいまいち、音は軽い。
  • 861:パワー的な余裕を感じる。

B)

  • E20a:個人的にはこれが一番好きだ 機種が多く比較が疲れる。
  • オーディオはデザインも重要だと思うがやはり音質(E20a)の方が重要だと感じた。

C)

  • 859:少しざわついたような印象、曇った感じ、低音が弱い。
  • V20:アルトサックスの低音の響きがよい、極低音の響きがわざとらしい。
  • E20a:量感があって良い、歯切れがもう少し欲しい、中域が少しうるさい。
  • 861:すっきり感があって良い。
  • 評価には、個人的な好みがかなり入っていると思います

D)

  • 859:透明感があり、あっさりしている
  • V20:他のアンプと表現がまったく異なり、逆相成分を拡大しているように聞こえる
  • E20a:ノーブルではあるが、キレが良くない、厚みがない
  • 861:厚みがある

E)

  • 859:今回の組み合わせでは一番好き、リラックスできる
  • V20:アピール度は一番、華やかで低音の押し出しもすごい、癖が強そう
  • E20a:上手く表現できないが他の3機種とは何か違う、音のきめが粗く感じた
  • 861:859を濃厚にした感じ、傾向としては好きだがこってりしすぎ
  • 大型のフロアスピーカーは低域が分厚くてうらやましい。全身を音で包まれているみたいでとても気持ちがいい
  • 859が良いと感じたのは自分の聞き慣れた音に近いからでしょう

F)

  • 859:こじんまりとバランスが取れていて良い
  • V20:音の情報量の多さを感じたが、長く聴いていると疲れるような気がした
  • E20a:音作りが優しい感じがする
  • 861:高音がすごくきれいで奥行きがある、長時間聴いていても疲れないと感じた

G)

  • 859:滑らかで艶もあるが、レンジ感が狭く平面的に聞こえる場合もある
  • V20:張りがある、透明感も高く音楽的、タイタニックは音離れが悪かった
  • E20a:音場が大きい、透明度もある、少し粗い感じがある。
  • 861:エネルギッシュでゆとりがある、音場も広く深い、解像度も高い
  • 今回300Bが聴けなかったのが少し寂しかった。

H)

  • 859:しっとりしていて優しく感じるが、ソースによっては力強さに欠ける場合がある
  • V20:音に幅がありしっかりしている、メリハリがあるが長時間聴くと疲れるかも
  • E20a:ソースを選ばずそれなりに聴けるが、これといった特徴がない気もする
  • 861:セパレートなのでもっと力強いかと思ったが、以外と優しい音に感じた

I)

  • 859:真空管アンプらしい暖かく聞き易い音で音楽が楽しめる
  • V20:真空管アンプらしくない音の立ち上がりの速さ、反応の良さが魅力的
  • E20a:全帯域を豊潤かつキレの良い感じで音が出て来る感じがする
  • 861:859より空間の透明度が高く、スケールの大きな音が聴けるように感じる
  • ウッドハム300Bが入ったら聴いてみたい。

J)

  • 859:高音部の声は4台中ベスト、他に比較してやや奥行きがない、低域がやや薄い
  • V20:サウンドステージが広い、低域がやや出過ぎている、音のバランスがやや悪い
  • E20a:中域の濃密さが心地よい、バランスがよい、低域の重心がやや高い
  • 861:E20aと近いイメージ、ただし濃密感な帯域が低域よりな感じ、声がやや薄い
  • アンプの違いもさることながら、ベースの音の良さに驚いた。楽しかったので次回も是非参加したい。

K)

  • 859:音のスケールがやや小さい、硬さがある
  • V20:丸みがあるが、全体にややぼける
  • E20a:高音が切れる、やや硬さがある、透明な音質
  • 861:バランスがよい、柔軟な音質
  • ソフトとの相性でアンプの評価が変わることを初めて知りました
  • クラシックにおける金管と弦の響きの違いがあることがわかった
  • このような聴き比べは自分と機器の相性を探る上で適していると感じた

L)

  • 859:バランスがよく明瞭だが厚みがやや足りない
  • V20:ゆったりとして厚みがありレンジも広いが、明瞭度が低い
  • E20a:中域の響きがよい、素直
  • 861:音楽性が大きい
  • いつも参加でき感謝している

M)

  • 今回のように性格の似ているアンプの比較も面白いが、個性的なアンプの比較も是非行って欲しい
  • いずれにしても今後も様々な製品の試聴会を行って欲しい

N)

  • 859:4機種の中では一番標準的
  • V20:独特の響きの柔らかさが魅力的、ヴォーカルでは力が足りない
  • E20a:細かな表情が少し欠けるがそれが艶になっている気がする、ヴォーカルはよい
  • 861:音色、響きともに最高

O)

  • 859:全般に質感がある
  • V20:質感がある
  • E20a:ヴォーカルは気持ちいい、雰囲気がある
  • 861:情報量は多いと感じる
  • 初めての経験であり評価は難しい。機器の長所と短所の説明は、機器購入に際して参考になると感じた

P)

  • 大変有意義な会と思っています。毎回参加したいと思います。特に、真空管やアナログ関係の試聴会を希望します

Q)

  • 859:分離がよく、透明感解像度に優れる
  • V20:音の角が丸い、全体にダレた印象
  • E20a:楷書的、細かな変化に乏しい気がする、オーソドックス
  • 861:開放感があり、力強い、解像度も十分
  • 点数については相対的な評価をしています
  • [834L+861]の開放感は魅力ですが[859]透明感は捨てがたいものがあります

総評

アンケート結果から見て、キングダム15には「834L+861]が最も良い選択であろうと考えられます。実際に私が聴いていても「癖が少なく、音楽をきちんと表現」していることに好感を持てました。
859は、高域の透明感には非常に優れたものがあり、大型スピーカーよりむしろ切れ味の良い小型2WaYスピーカーとの相性がよいのでしょう。小型-中型のスピーカーで小編成の音楽や、バラード系のヴォーカルを聴くには、真空管アンプ中で現時点でもベストアンプであると思います。
V20は、「良くも悪くも個性的なアンプ」であるといえるでしょう。各人のアンケートの点数もばらつきがやや大きいようです。特定の装置や特定のCDソフトを心地よく聴きたい場合や、V20の音質に惚れ込むなら、ベストなアンプだと思います。
[E20a/TUNED BY IPPINKAN]は、他のアンプに比べて半分以下の価格であるにも関わらず、「同等の評価」を得ることができました。キングダムとの組み合わせでは、獲得得点は「第二位」だったのですからりっぱだといえるでしょう。
自画自賛などしたくはありませんが、「逸品館チューン」の有効性が認められたことは嬉しい限りです。外観には癖がありますが、音質は癖が少なく透明感も高く、現在発売されている真空管アンプの中でもベストサウンドな一台であることは間違いないと思います。
[859]・[V20]・[E20a/TUNED BY IPPINKAN]の三種類のアンプは、三号館第二試聴室にて、常時比較試聴いただけます。
ソフト(CD・LPどちらでも可)をご持参の上、ご自身の耳でお確かめ下さい。

追記

98年12月5日に、C.R.D / Woodham 300Bをモノラル接続して試聴する機会を得ました。
結論だけ述べれば、このアンプは「モノラル」で使用すべきです。音質の癖がとれ、帯域は広がり、解像度は上がり、にわかには信じられないほど音質は向上します。また、ステレオで使用する場合でも、プリアンプを併用することで音質はかなり向上するでしょう。
おすすめのプリアンプは、EAR-834L・C.R.D-カルメンタです。

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