ステレオの音をまず良くしよう
マルチチャンネル方式がいかに音が良いといっても、マルチチャンネル録音されていない古い音楽にも、CDでしか発売されていないソフトにも素晴らしい音楽は沢山あります。そこでマルチチャンネルに移行する前に、現在お使いのスピーカーの音をさらに良くするための設置法を説明しましょう。
ステレオでは2本のスピーカーが、マルチチャンネルではさらに多くの5本になるわけですから、まず「2本のスピーカーをいい音で鳴らす技術を習得する」のは、今後のことも含めてとても大切なことなのです。
音場の濁りを少なくできる、合理的なスピーカーの設置位置
普通、ほとんどの人はリスニングポイントを部屋の中央にとり、スピーカーをD線のように部屋と並行に設置しています。しかし、これではスピーカーから出た音がまともにリスナー背後の壁で反射してしまい、不必要な定在波を生じます。これを回避するためにはリスニングポイントをG→G’に移動し、部屋を斜めに横切るF線上(オフセット角度5度以上)にスピーカーを設置すべきです。AとB・CとEの距離は、部屋の大きさによりますが50㎝~1.5Mは必要です。しかし、Dの距離を優先して1.2~1.5M以下にはならないようにして下さい。
さらに重要なことは、スピーカーの方向誤差をGあるいはG’に向かって完全に0度に設置した上で、α=α’・β=β’の誤差を数㎜以下にすることです。そうすればスピーカーの存在を完全に消し去ることが出来ます。 (そのためには、レーザー・セッターの使用が必須となります)
レーザー・セッターの使用法
レーザー・セッターは左図のように、リスニングポイントの前に置いて使用します。レーザー・セッターを使って左右のスピーカーの位置を精密に合わせることで、音は空間で歪むことなく綺麗に混じり合います。音場空間がそれまでの数倍の大きさになり、ひとつひとつの音がハッキリと分離して聞き取れるようになります。スピーカーの存在感や圧迫感が消え、ストレス無く音楽を楽しめるようになります。(レーザー・セッターは逸品館のオリジナル商品です)
左右のスピーカーを別々に鳴らしながら調整しよう
スピーカーを理想的な位置に置くのが難しい場合や、レーザー・セッターが手元にない場合には、次のような方法でスピーカーの音をある程度まで良くすることが出来ます。
まず、CDからアンプに繋がっている線(インターコネクトケーブル)の一方を抜いて適当なソフトを再生します。スピーカーを前後や左右に動かしながら「音の濁り(曇り)や広がり方」に注意して聞いてください。「音がクリアーに広がって聞こえる」のが「スピーカーを置くのに適した位置」です。次に、反対側のスピーカーも同じやり方でいい位置を見つけてください。
このように、スピーカーのセッティングを行うときには、左右それぞれのスピーカーを別々に鳴らしながら行うのがポイントです。2本のスピーカーを同時に鳴らすと、それぞれの音が混じり合って音が濁り、ベストな位置を見つけるのが難しくなるからです。
さらに音質向上を求める場合には、レーザー・セッターを使ってスピーカーの位置を追い込みます。レーザー・セッターを使うとすでに決めたスピーカーの位置や方向が変わるため、最初に行った「音の濁りの低減効果」が薄れます。再度、その位置の付近で左右のスピーカーを少しずつ動かし、濁りの少ない位置を探してください。そして、またレーザー・セッターで左右の位置関係を調整し、追い込んで・・・この作業を根気よく繰り返すと、スピーカーの音質は信じられないくらい向上します。
ルーム・アコースティックを調整し音の広がりと定位を向上する
スピーカーの位置は、ほぼ完璧に調整できました。次に、スピーカーを動かすのではなく、カーテンやカーペットなどを使って部屋の残響成分などの悪影響を取り除きましょう。この作業を「ルーム・アコースティックの調整」と呼んでいます。
ルーム・アコースティックを調整する目的は、「特定の定在波(特定帯域の音響エネルギー)の低減」と「再生音に不要な輪郭成分を形成する初期反射の低減」です。前者は主に「音場空間の濁り」に影響し、後者は「音の運動(躍動感)や音の分離感」に大きく影響しています。
定在波は前後左右の壁の間で発生する | 定在波は天井と床、壁のコーナーでも発生する |
定在波は、フラッターエコーとも呼ばれ「特定の周波数(特定の大きさの音)が反射を繰り返し、いつまでも減衰せず残響として残ってしまう」ことです。定在波は平行する2つの平面の間で「音が往復を繰り返す」ことにより発生します。部屋の中で一番大きな平行面である「床と天井」に注目してみましょう。「床」が畳である日本間の場合は、比較的「天井と床の間のフラッターエコー」は比較的小さく大きな問題とはなりません。しかし、「フローリング」の洋間では天井と床の反射率が高く、非常に強いフラッターエコーが発生します。このような部屋では、手を叩くと「キンキン」あるいは「ギンギン」というカン高い不愉快なエコーが発生します。天井のコーナーでも、壁を伝わって逃げ場を失うようにぶつかり、圧迫感のある耳障りな音が発生します。
フラッターエコーを発生させないためには、「部屋の中で平行する平面」の両側、あるいは片側を吸音し、音の往復運動が起きないようにすればよいのです。そのためには、「天井」あるいは「床」のどちらかに吸音措置を施す必要がありますが、「天井」を吸音構造にするには、部屋の大改造が必要となり現実的ではありません。(2002年にサーロジックから発売されたスカラホールは安くて効果のある天井吸音用アクセサリーです)天井ではなく「床」に吸音措置を施す方が得策です。それには、「厚みのあるカーペット」を設置することが最も簡単です。「音源」に近いところで「吸音」すると効果が高いので「吸音効果の高い=厚みと重量のあるカーペット」を「スピーカーの直前に敷く」のが理想的です。カーペットの大きさは、横幅が「スピーカーの設置幅の約2倍」、縦(奥行き)が約1-2M程度は必要です。
次に大きなフラッターエコーが発生しているのがスピーカー左右と前後の壁の間です。大きな部屋や変形のリビングなどでは、壁によるフラッターエコーの悪影響は比較的小さいのですが、4.5~6畳程度の小さめの部屋で壁同士が正対していると大きな悪影響が生じます。小さなリスニングルームでは、スピーカーの左右と背後の壁からの反射を抑え、壁によって発生するフラッターエコーを低減するために、壁全体を覆うように「カーテン」を設置する事を強くお薦めします。
壁からの反射を抑えて定在波を減少させる方法
設置するカーテンは、「遮光性1級」あるいは「簡易防音」などの種類を使えば効果が最も大きいはずです。できれば「厚手」と「薄手」のカーテンを2重に設置できるようにしておけば、カーテンの開け閉めでルーム・アコースティックを調整することができ大変便利です。カーテンを設置する場所は、「スピーカーの背後」と「スピーカーの左右」の壁が良いでしょう。「スピーカーの背後」はできれば全面に、「スピーカーの左右」はスピーカーの背後より始まって、スピーカーの前1-2Mくらいまでは必要です。
※さらに低音の回り込みを防ぐために、壁と垂直方向に吸音材を配置すれば音場空間の濁りや低音のもやつきを効果的に抑えることが出来ます。
天井コーナーからの反射を抑えて定在波を減少させる方法
天井のコーナー部分では壁に沿って進む音が集まりぶつかり合って「圧迫感のある残響音」を発生させています。この「天井のコーナー」からの残響を低減するために、各社から発売されているコーナータイプの吸音材を天井の四隅に設置する事をお薦めします。
※設置は、できるだけ一対のコーナー又は全部のコーナーに行って下さい。片側や一部のコーナーだけに設置すると、音の広がりが偏ることがあります。スピーカー直前の床に毛足の長いカーペット(ムートンを推奨)を敷いたり、天井に吸音材を設置すると、上下方向へ大きく音が広がり、楽器の位置関係や分離感が向上します。