5本のスピーカーを同じものにしなければいけないのか?
ステレオ(2Ch)ではスピーカーは同じものを2本揃えれば済みました。マルチチャンネルではセンターに1本・リアに2本・さらにスーパーウーファー(必ずしも必要ではありません)を加えた、合計5本+1本(5.1Ch)のスピーカーを使用します。スピーカーの数が増えると「5本ともすべて同じスピーカーで揃える」のは、空間的にもコスト的にも難しくなります。そんなユーザーの真剣な悩みをどう考えているのかわかりませんが、ほとんどのメーカーは「すべて同一のスピーカーを使いなさい」あるいは、「すべてのスピーカーは同一のメーカー品にしなさい」などと自分勝手なことを言っています。しかし、はたして本当にそうなのでしょうか?
実際のコンサートを想像してください。ステージは前にあり、ほとんどの音は「ステージの方向」からやってきます。フロント(センター)スピーカーが受け持つ、ステージ方向から来る音は「楽器などの直接音成分が中心に構成」され、それらを正確に再現するスピーカーには、「アタックなどが明瞭に再現される過渡特性の良さと周波数レンジ、Dレンジの広さ」が求められます。
リスナーの後方に設置されるリアスピーカーが受け持つのは「後ろからの音」です。後方から来る音は、フロント(センター)が再生する音とは違い、「ホールの残響音や反射音などの間接音」が主体に構成されています。間接音の再現に求められるのは「良好な音の広がり」です。そのためリアスピーカーは「無指向性に近い大きな音の広がり」を持つことが理想です。
このように、マルチチャンネルのフロントとリアに求められるスピーカーの特性はかなり違います。そのために「同じスピーカーを5本配置」するよりも、積極的に「より適したスピーカー」を選ぶことが必要です。「同一のスピーカーを5本使いなさい」という説明は間違いなのです。
フロントスピーカー | センタースピーカー | 相性 |
---|---|---|
ソフトドームツィーター | ソフトドームツィーター | O |
ハードドームツィーター | ハードドームツィーター | O |
ホーンツィーター | ホーンツィーター | O |
ソフト(ハード)ドームツィーター | ハード(ソフト)ドームツィーター | △ |
ソフト(ハード)ドームツィーター | ホーンツィーター | X |
ホーンツィーター | ハード(ソフト)ドームツィーター | △ |
フロントとセンタースピーカーの選び方
同じ音が、3本に分割されて再生されるフロントスピーカーとセンタースピーカーの音色は、可能な限り近い方が好ましく、例えばツィーターの材質を、フロントがソフトドームならセンターもソフトドーム(ハードならハード)にするとか、フロントが2WAyバスレフ方式ならセンターも2WAyバスレフ方式(ユニットの口径もできるだけ近づけられればベスト)にするなど「音色のバランス」を注意して合わせてください。また、フロントとセンターでサイズの違うスピーカーを使う場合には、音質のバランス(低音と高音の質感や音色の違いなど)に十分注意してください。
少しでも低音を稼ごうと多くのセンタースピーカーは「Wウーファー方式」を採用していますが、中音(特に声)が濁ったり、音場の奥行きを阻害する原因となるので、センタースピーカーは「シングルウーファー方式」が適しています。様々なセンタースピーカーによる音質をテストしましたが、センタースピーカーは「定位の補助」として作用させることが好ましく、周波数としては、「100Hz~200Hz以上」が再現できれば十分な効果があります。逆に低音を少しでも増やそうと欲張ってセンタースピーカーを大きくすると、低音よりも中高音の指向性が強くなりすぎて不快な圧迫感を生じます。また、大型のスピーカーは音が上手く広がらないため中央奥への音場の自然な広がりが損なわれてしまいます。特にリスニングルーム(シアタールーム)が10~12畳以下の場合には、安いから「音が悪いだろう」などとと思いこまず、ウーファーの口径が16センチ程度以下の小型2WAy方式のスピーカーを選んだ方が良好な音質が得られます。3WAy方式などの本格的なセンタースピーカーが効果をあげるのは、部屋のサイズが20~30畳を超えてからです。
リアスピーカーの選び方
リアスピーカーは、フロントスピーカーと音色が違ってもさほど気になりませんから、方式や音色の質感などを合わせるために、無理して新しいスピーカーを購入する必要はありません。手元に小さなスピーカーがあればそれをリアに置いて試してください。結構十分な音質が得られると思います。ウーファーの口径が16センチ以下でドーム型のツィーターを搭載している、トールボーイデザインのバッフル面積が小さいスピーカーが適しています。大型スピーカーは指向性が強くなりがちで、また設置の自由度も低くなりますからリアに無理して大きなスピーカーを置く必要はありません。
理想的なリアスピーカーは、周波数帯域が広く指向性が穏やかな製品です。選び方はほぼセンタースピーカーと同じでよいのですが、違う点は低音がでる方がより良好な音質が得られる事です。ソースは限られるのですが、リアスピーカーだけから「周波数の広い音」が再現される場合などに、低音が出せるリアスピーカーは効果を発揮します。オーディオプロの製品なら、IMAGE11がセンターに、IMAGE40がリアに適しています。
スピーカーの設置場所
スピーカーを設置するときに最も大切なのは、「同一平面上(出来るだけツィーターの高さが揃うよう)に5本のスピーカーを配置する」ということです。特に前3本のスピーカーは、可能な限り同じ高さになるように配置してください。センターを床に置いたり、天井に付けたりするのは感心しません。そんな位置に設置するくらいなら、センタースピーカーをなくすほうが音は良くなります。リアスピーカーもフロントスピーカーと同じ高さか、それよりもやや高い位置に配置するのが理想です。
- センタースピーカーはスクリーン(TV)下端に設置する
- 上向きの角度を付けず、水平に設置すると音が自然になる
- スクリーンを設置しない場合には、ツィーターの高さをフロントスピーカーと揃える
- リアスピーカーはスリムなトールボーイスタイルが理想
- リアスピーカーの高さは、フロントスピーカーと同じか少し高い位置に取り付けるのがベスト
- 大きすぎるリアスピーカーは音の広がりを損ねる
センタースピーカーとフロントスピーカーの角度は、30度が理想。30度が無理な場合には、できるだけ45度以下になるようにする。センタースピーカーは極端に左右によらなければ、厳密にフロントスピーカーの中央でなくても良い。
リアスピーカーは、フロントスピーカーから110度の位置が理想。極端に後方になるのは避ける。(140度以下)
レーザー・セッターを使用してスピーカーの位置決めを行う場合には、フロントとセンターはリスニングポイントの前に(レーザー・セッターのマーク)置いて調整する。
リアスピーカーを調整する場合には、リスニングポイントの後ろで調整する。レーザー・セッターに挟まれたエリアで理想の音場空間が実現する。
5本のスピーカーが水平(やや後ろ上がりでもよい)の同一平面上に、きちんと配置されたとき、マルチチャンネル・システムは最高の音場再現性(音の広がり)を発揮します。大きなスピーカーを置き場所に困って不揃いに配置するよりも、高品質な小型スピーカーを同一平面上に配置する方が空間再現性(音の広がり)や音の動きのシャープさ・正確さは遙かに優れています。
リアスピーカーを天井に付けるのもできるだけ避けたいのですが、部屋の構造上どうしてもそこしか場所がない場合にもやはりできるだけ小さくて、指向性のゆるやかなスピーカーを選ぶ方が良好な音場空間が実現します。
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