そのアルバムを聴いただけで、何かに挑戦したくなる、そんな感覚を覚えるアルバムが、皆さんにも幾つかあると思います。かつてポール・マッカートニー が、ビーチボーイズのPet Sounds を聞いて、その興奮からサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドを作ったと言う逸話を聞いたことがあります。
レコードを作るわけではないですが、私にそう言う感覚を感じさせてくれるアルバム中のひとつが、THE FLAMING LIPSの1999年発表のアルバムザ・ソフト・ブレティンです、アメリカのオクラホマで1983年に結成され、メンバーの脱退・薬物中毒など様々な困難の中から生まれた、まさに暗闇に光る一筋の光のようなアルバムです、70年代のサイケムーブメントからタイムスリップしたかのような煌びやかなロックの輝きと、クラブミュージックの打ち込みサウンドの持つ独特のグルーブが相まって、何とも美しく先鋭的な作品です。タイトルのThe Soft Bulletinとは、”(怪我の心配の無い)柔らかい銃弾が入っています”と言うような意味合いで(アメリカのピストルのおもちゃの表示かもしれません)、平和への祈りが込められています。
プロデュースとエンジニアリングを行ったのは マーキュリーレブのメンバーでもあり、ウィーザーのプロデューサーとしても有名なデイヴ・フリッドマン、このアルバムがここまでの完成度となったのには、彼の存在もとても大きかったと思います。彼のミックスが普通では無いのは、1曲目のRace for the Prizeのイントロを聴けばすぐ分かります、何とドラムの音が右サイドに寄っていて左からはストリングスが鳴り響き、一瞬故障かな?とびっくりするのですが、単なる前衛的なサウンドとは異なり絶妙なバランスでむしろ楽曲のすばらしさを引き立てています、そのほかの曲も工夫に満ちた音作りで何階聞いても新鮮で新しい発見がある内容です。
ライブパフォーマンスも大変すばらしく、メンバー4人の最小限の構成で、バラエティに富んだアルバムの楽曲を見事に再現していて、それだけでなくヴォーカルのウェインは間奏中などには花火やスモークマシーンなどを自信で操り、ライブを盛り上げるサービス精神はとてもすばらしく、来日の際には是非一度見てみたいと思っています。
このアルバムの以外にも、4枚組みのCDでそれらを同時に8本のスピーカーで再生して初めて一つの作品となる Zaireekaや、観客に50台のラジカセを配布し(1台1台に別のトラックデータが入っている)それをメンバーが指揮をして再生をさせて、ラジカセでのオーケストラライブを行ったり、とても面白い活動を繰り広げています。
彼らの、前衛的ながら観客を突き放す自己満足的なサウンドではなくポップでわかりやすいサウンドで、CDでもライブでもいつもサービス精神に満ち溢れた姿勢を、楽しむだけでなく見習ってゆきたいと思います。
The Soft Bulletin
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