今日はオーディオとモータースポーツの共通点のお話です。
私がモータースポーツを趣味とし、レーシングカートでレースを楽しんでいることは過去に何度かメルマガでとりあげました。レースの目的は「一番」になることですが、そのために重要なのは「マシンのパフォーマンス」です。よほど腕が違えば別ですが、モータースポーツの世界では「良い車(速い車)」を持っていることが勝利への第一歩となります。オーディオでよい音を出すためにも「マシンのパフォーマンス」が重要です。カメラやパソコンも同じです。人間の能力をマシンが増幅し「人間とマシンのトータルの能力」を競う部分がこれらの趣味の「共通点」です。
それに対し、本日東京で開催された「東京マラソン」では人間そのものの力を競います。人間以外のパーツで重要なのは「シューズ」だと思いますが、多少悪いシューズを履いていてもマラソンの結果が覆ることはありません。あくまでもマラソンは、人間主体の競技です。
マラソンの意義は「人間の力だけで42.195Kmを早く移動する」ことを競うことにあります。人力で早く移動するだけなら、自転車を使えばいいのですがマラソンのルールに異議を唱える人はいません。なぜなら「道具を使わず、人間の力を競う」ことにマラソンの意味があるからです。定められたルールを守って 42.195Kmを走りきることに「マラソンの達成感」があります。タイムを縮めるには、地道なトレーニングを積むしかありません。近道のない辛い長い時間だけが、マラソンの記録を短縮します。マラソンはこの点で、道具が人間の力を倍加するモータースポーツやオーディオとは明らかに異なります。
話は変わりますが、私はインターネットで時間を潰した後、なぜか「物足りない」気持ちが残ることがあります。「満ち足りない」と言い換えても良いでしょう。とにかく何か満たされなくて、ずるずると長時間パソコンの前でキーボードを打ち続けることが多いのです。
その理由を考えました。今まで人間は情報を得るために、道具は使いませんでした。マラソンと同じように、地道な努力によって情報を得ていたのです。しかしインターネットはその努力を奪いました。インターネットを使うことで情報は容易に入手できますが、同時に「人から苦労を奪った」のです。個人差がかなり大きいと思いますが、少なくとも私は、労せずして得られる情報から達成感や満足感が得られにくいタイプなのでしょう。それが私がインターネットやパソコンで時間を潰しても、満足できない一因なのかも知れません。
マラソンで得られる(勝たなくても大きな達成感は得られます)「達成感」は、それまでに積み重ねた労苦と引き替えに得られる、苦労のご褒美です。この「逃げ道のない真っ直ぐに苦労した時間(実感)」が「達成感」をより大きくするのだとすれば、道具によって人間の力が増せば増すほど、それに反比例して「達成感」が薄れることが危惧されます。
困難に挑み、それを成し遂げることに大きな喜びを感じるのは、人間の本能です。馬鹿げたことと知りながら、肉体を傷つける格闘技。文字通り命をかけて早さを競うモータースポーツ。世の中が便利になりすぎたこんな時代だからこそ人は、より強く「冒険」にあこがれるのではないでしょうか?
最近の大きな社会問題として「鬱」が上げられますが、道具が便利になったことで「達成感」から得られる喜びが少なくなったことが一因だとは考えられないでしょうか?体を動かし、困難に挑み、それを克服する機会が多ければ多いほど、喜びも多いはずです。便利に機器を入手することは、喜びが得られる一方でそれが奪われているのかも知れません。マシンの奴隷にならないよう、マシンの力に溺れないよう注意が必要です。
振り返ってオーディオを考えれば、最近以前よりアクセサリーが多く売れていることに気づきます。機器自体の価格が高くなって、おいそれと買い換えられなくなったことも一つの原因だと思いますし、音源がレコードからCD(デジタル)に変わったことで、音を変える部分も変わっているのでしょう。しかし、いずれにせよオーディオの喜びは機器からいい音が出るに任せるよりも、自分の努力で音を良くできたときの方がずっと大きいことにかわりはないはずです。
高性能なマシンの力を借りて実力以上の力が出せるよりも、自分自身の工夫や努力によって得られる達成感が「趣味の喜び」に違いありません。マシンを使っても、喜びの基本はマラソンと同じです。
人は「喜び」なくしては生きられません。その喜びを満たすことのできる「趣味」は、多ければ多いほど人生を豊かにしてくれることは間違いのないことです。そして、努力(目標へ向かって頑張ること)が多ければ多いほど、人生は満ち足ります。逸品館はそんな「考えるオーディオファン」を応援します。
オーディオへの理解をより深めるための書物を逸品館のアマゾン・インスタントストアに追加しました。「音のなんでも小辞典/日本音響学会」です。
まだ半分ほどしか読破できていませんが、最後までさらっと目を通した感じでは、幅広い話題が取りあげられており、一般的な測定データーに基づく説明よりも遥かに、現実的に音楽とオーディオの理解を深めるために役立ちそうに感じます。
理数系が苦手な方には、ちょっと難しいかも知れませんが、内容は高校高学年~大学生くらいの難易度だと思います。価格は1,100(税別)です。つまらない雑誌や音楽ソフトを買われるよりは、遥かに良好な趣味への投資になると思います。