楡 周平著「クラッシュ」
物語は独フランクフルト空港へ着陸しようとした旅客機がバランスを失って滑走路に激突、全乗員・乗客が死亡するという惨劇から始まる。
事故を起こした「AS-500」は世界最新鋭のハイテク機でこれが初フライトだった。
原因はパイロットの人為的ミスとして片付けられたが、フライング・コントロール・システムの制作を請け負っていた
「U.S.ターン・キー社」に対して航空会社からはソフトの改良が申し渡された。
同社のチーフ・エンジニアでAS-500に関するソフトを完成させたキャサリン・ハーレーは社の最高経営責任者グレン・エリスとは事実上の夫婦であったが、夫のグレンは秘書を新しい愛人にして熱を上げていた。
さらにその愛人とキャサリンにクビにされ、彼女に恨みを抱く元エンジニアが仕組んだとんでもない企みによってキャサリンのプライドは完全に崩壊してしまう。
夫婦円満だった頃、グレンが撮影したキャサリンの全裸写真が全世界に向けてネット上に公開されてしまったのだ。自分が居なければ出来ないソフト改良のミッションを無視して家を飛び出したキャサリンに対する報復だと勘違いした彼女はグレンと自分を陵辱したネット社会に対して復讐を決意する。
人知れぬ場所でAS-500のフライング・コントロール・システムを書き換え、ある手段でそれを航空会社に納入させる事に成功。
これにより飛行中の2機の旅客機が突如、操縦不能に陥ってしまう。
さらに墜落を回避する為に全世界の誰もが出来る簡単な行為を設定し、全米TVネットワークで公開させる。
この巧妙な手段により天才的なエンジニア、キャサリンが精魂を傾けて生みだした超危険なウィルス「エボラ」がインターネットの沃野に放たれてしまう。
個人のPCはもちろん、大企業や金融はじめあらゆる仕事場で面白半分に「簡単な行為」に熱中していたすべてのPCデータが一瞬にして全滅。
社会は大混乱に。
悪魔のような「エボラ」を駆逐する事は出来るのか!?
2機の旅客機の運命は!?
面白そうでしょう?
この作家は人物設定は通りいっぺんで格別魅力は無いのですが、題材に対する取材力・知識が圧倒的なリアリティを生みだしています。
臓器売買を描いた「マリア・プロジェクト」や宗教による革命テロをテーマにした「クーデター」、また一転してお水の世界を描いた「フェイク」など軟派な題材でも細かいディティールを積み上げて、いかにも「本当の事」のような現実感があります。
読み出すと「どうなる?どうなる?」で最後まで一気読みしてしまう傑作エンターテイメントです。