年に一度の大イベント・ハイエンドショウ東京秋のデモンストレーションは無事終了いたしました。今年も多くのお客様にご来場賜り、感謝の念に堪えません。
今回のハイエンドショウを私なりに振り返ってみました。
「Stereo」
スピーカーの足下にボードを置き、インシュレーターを使うだけであれほどまで大きく音が変わるとは予想していませんでした。波動ツィーターやサブウーファー、ジャンパー線やRCAケーブルの追加や交換による音質改善もデモしましたが、いずれも「音源フォーマット(CD/ハイレゾ/DSD)」による音の格差よりも、遙かに違いが大きかったように思います。
「Tube Sound」
「CD/真空管プリメインアンプ/スピーカー」というミニマムな組み合わせですが、十分実用に足るどころかオーディオのゴールとして相応しい「質の高い音」で音楽を楽しんでいただける音を出せたと思います。手元にある「音源(主にCD)」をどのように鳴らすか?そこからどれだけの音楽性を引き出せるか?それに成功すれば、手元にあるCDがすべて「宝物」に変わります。それを実現できるオーディオシステムの価値は計り知れません。大きさや価格ではない、オーディオ機器を訴求させていただけたと思います。
「PC Audio」
PC関連の音質が進歩しているのは間違いありません。しかし、逸品館ではあえてハイレゾやDSD音源を推奨していません。別にそれらを嫌っているわけではありませんが、たいていの場合オーディオの情報は「音質」や「スペック」に偏り過ぎる傾向が強く、まるで「ハイレゾでなければ良い音が出ない」あるいは、「ハイレゾなら良い音が出る」と、まったく根拠にかける短絡が広まることを憂うからです。特にハイレゾ音源はまだまだ少なく、聞きたい音楽がないからというのも大きな理由の一つです。また、音質重視で録音された最新音源の多くは、音楽不在ものもが多くみうけられ、中には一度聞けば二度と聞かないようなものもありますし、酷いものは、聞くことすら途中で止めてしまうほどです。こんな出来損ないとをオーディオ、最新オーディオだと勘違いされてしまうのはとても不幸な事だと思います。
このコーナーでは、AIRBOW K07 Ultimateを使って、PCとのUSB接続の音質と内蔵するトランスポーターを使った「生CD/生SACD」の音質を比較することから始まり、話題のGPSクロックジェネレーター、さらにベルトドライブ方式CDトランスポーターのAIRBOW TL3N Analogue、最新DAC DA3N Analogueの試聴へと進みます。その音をお聞きいただければ、ハイレゾやDSDにこだわらずとも、PCを使ったオーディオがすでに最高級CDプレーヤーに匹敵するレベルにまで向上していることがおわかりいただけると思います。
「Surround」
このコーナーは機器の不調により、思ったデモができませんでした。しかし、それでもサラウンドの臨場感、ステレオとは異なる感動がそこにあることをお伝えできたと思います。
オーディオの音質はどれほど進歩しても、生の音を超えられません。それは純然たる事実で今後も変わることはないでしょう。しかし、音楽の再現性では生演奏を超えられます。それは過去にもあり得たことですし、今後もあり得る事でしょう。しかし、それをなし得るためには「聞くに足りる素晴らしい演奏が収録」されていることが絶対的な条件です。どんな音が聞けるか?よりもどんな音楽が聴けるか?がずっと大切なのは言うまでもありません。最新映像のつまらない映画を見るよりも、モノクロ映画の感動が深いのとまったく同じ理由です。
今から約12年前の2000年前後に、私はオーディオについて随分と深く考え一つの結論に到達しました。ある意味ではオーディオに対する謎が解けたと言えるかも知れません。その時からお薦めする製品や、AIRBOWとして製作する機器の音質は進歩したように思います。そういう意味で今回のデモンストレーションは、初日を除いてかなり良い音が出せたと思っています。中でも2日目の音は、装置を問わずとても良かったと思います。
「良い音を聞いた記憶」は長く残ります。同時に「良い音楽に触れた記憶」も長く残ります。良い音楽は同じソフトを買えば手に入りますが、良い音はご自身でお作りにならなければなりません。自宅に戻り、ご自身のオーディオ機器の音質を改善しようと試みたときに「どうすればよいのか?」その方法の提案にも抜かりはなかったと思います。しかし、逆に「基本に戻った」事により、目新しい話題が少なく感じられたかも知れません。
オーディオ機器は単なる機械かも知れませんが、それが再生する音楽は紛れもない芸術です。オーディオを通じ「芸術の意味」に目覚める。趣味を通じて、「人生の意味」を知る。それが趣味の本道だと私は考えています。我々専門店のスタッフはお客様をその価値や意味に誘い、気づいていただくことも大切な仕事だと考えています。技術がどれほど進もうともオーディオは単なる脇役で主役は音楽。それは決して変わることはありません。
最安値で機器を購入するよりも、間違いのない機器を選ぶよりも、購入していただいた機器の音から、芸術の輝きが溢れ出してくる。その音の向こう側に、音楽を愛する作り手の素晴らしい人となりが透けて見える。インターネットに「軽い情報」が溢れる今こそ、それに気づいていただくことが何より大切だと感じています。
今回のハイエンドショウ東京で行った逸品館のデモンストレーションは、前編を「Ustream」でダイジェストを「YouTube」でご覧いただけます。よろしければ秋の夜長の暇つぶしにでも、お楽しみ下さいませ。