———————オーディオの楽しさ、喜びとは?———————
・生演奏とオーディオの違い
ここまでは主に、オーディオでは生演奏を再現できないというお話を続けてきました。次に生演奏とオーディオの違いを考えましょう。
端的に言うと生演奏とオーディオの違いは、風景と風景写真のちがいです。風景を見るときは、その現場の空気や音など「視覚情報以外」の情報も体に入ってきます。風景を精密な写真に収録することで「視覚情報」は、ほぼ完全に記録できますが、それ以外の情報は欠落します。生演奏とオーディオも同じです。生演奏では音以外の様々な情報が体に流れ込んできます。オーディオでは、音だけが再現されるに過ぎません。それが、生演奏とオーディオの根本的な違いです。
・写真と絵画の違い
つぎに風景写真と風景画の違いを考えましょう。写真は、目に見える情報を公平かつ精密に記録し再現します。風景画は、作者が選んだ情報をデフォルメして記録します。人間が介在しない写真に対し、絵画では人間が情報を取捨選択することが大きく違います。さらに色の濃さを変え対象物の形を変化させることで、記録する(描く)情報を作る(クリエイティブする)ことができます。その作業こそ、芸術そのものです。
オーディオでは収録の段階で、すでに取捨選択がミキサーやエンジニアの手によって行われています。再生段階では、オーディオ機器の使い手により、さらに取捨選択が行われます。再生される音楽は、生演奏が複数の人間の手でデフォルメされたものになります。その作業もまた芸術です。つまり、オーディオとは演奏者・録音技術士・再生技術士(オーディオマニア)が作り上げる、新たな芸術であると考えられます。
録音技師や再生技術士が生演奏に改変を加えることを「良くない(冒涜)」と考えることもできますが、生演奏と同じ音楽を記録することができない以上「生演奏が持っていた芸術性をできるだけ損なわない」という取捨選択をすることで、生演奏を可能な限り損なうことなく再現することが可能だとも考えられます。
いずれにしてもオーディオでは演奏者以外の介在を否定することができず、その第三者の介在が「音楽の再現性の決め手」となることは間違いありません。