先週の土日、中野サンプラザで開催された「ヘッドホン祭り2015春」に出展しました。参加されるお客様の過半数は、オーディオフェアの来客のマニア度よりもさらにマニア度が高く、「音楽を聞く装置」としてオーディオをもっと一般的にしたいという私の考えとは、少し違ったイメージでした。今年も秋に東京で開催される「ハイエンドオーディオショウ」に、出展しようと考えています。
※予定を変更し、今年は「ハイエンドオーディオショウ」ではなく、「オーディオ・ホームシアター展2015」に出展することとなりました。
久しぶりに遠方からオーディオファンの友人が尋ねてきました。彼は回路設計を仕事にしている「プロ」なので、電子回路には詳しく自作もやっています。けれど、彼は「AIRBOWの音はどうしても出せない」と言います。それには、いくつか理由(秘訣)があります。
オーディオメーカーは「歪みの小さい機器(スペックに優れる機器)」を作ります。最新のAIRBOW機器は、「オーディオ機器そのものが、楽器のような美しい響きを生み出す」ことを念頭に音作りをしています。その目的を達成するには、「シンプルな回路」は不向きです。入力される音楽信号に「共振・共鳴」して響きを生み出せる部分が少ないからです。
例えば、電解コンデンサー(ケミカル・キャパシタ)は、それ自体が振動して響きを生みだします。生み出される響きは測定的には「歪み」です。一部のオーディオメーカーは、スペックを改善するために増幅回路からコンデンサーをなくそうとします。そうして生まれたのが「直結回路」です。けれど、こういうシンプルな回路は入力された信号をそのまま増幅してしまうため、ソフトの粗を暴きます。録音に優れた少数のディスクはよい音で聞けても、そうでないディスクは聞けなくなります。
初期のARIBOW製品は、そういう「ストレートすぎる音」でした。「音の良さ」を追求すると、「雰囲気の良さ」が薄くなります。逆に「雰囲気の良さ」を出し過ぎると「解像度(音の細やかさや明瞭度感)」が低下します。そのどちらも高めるのが、私も目指す音です。最高に音が良く、そして最高に雰囲気が濃い音を目指し、ここ数年でそれを実現できるようになりました。友人が聞いた5年ほど前から、現在の3号館の音は相当進化しています。音はさらに細かく、レンジが広くなったにもかかわらず、雰囲気は実に濃くなっています。
彼は3号館で持参した音楽をTAD R1 Mark2、C600、Digital Domain B1aの組み合わせで聞きながら「こういう音はパッション(情熱)がなければつくれない」と終始興奮した様子でした。深夜までたっぷりと音楽を聞き、「最近閉塞感があってオーディオには期待していなかったけど目が醒めた。オーディオは生演奏を超えるんだ。」と納得して帰路につきました。
最前線の現場で最新の電気回路設計に携わる、彼の言葉だから重みがあります。振り返れば人の名前が付いた「名機」が多いのもオーディオ機器の特長です。「Mark Levinson」、「marantz」、「Mcintosh」、「Pass」。音楽再生への飛び抜けた情熱を持つ人物が、飛び抜けて音の良いオーディオ機器を生み出します。メーカーだけが存続し、設計者が次々と変わり、音作りのノウハウが継承されないメーカーの製品では出ない音がそういう機器からは出てきます。
そういう観点から「ヘッドホン市場」を見れば、音の作りが粗雑で価格と音質がまったく比例しない製品がとても多いように思いました。また、巨大になったことで「音質が悪くなってしまった有名メーカー」も少なくありませんでした。いたずらに値段ばかりが高くなり、音が良くなっていない(悪くなっている)製品も少なくありません。音をわからないメーカーが作り、音を判断できないマニアが集い、音を知らないショップがものを売る。価格もメーカーも、情報もあてにならない、未熟で危険な世界です。
このヘッドホン祭りでたまたまブースが隣だった「Japaear」(ジャパイヤー)2013年10月設立の、まだ生まれて間もない会社ですが、代表取締役の内藤亮文さんが直々に参加され、空き時間に世間話をしていました。その中で代表の「私が買えない価格のイヤホンは売りたくない」という言葉が印象的でした。少しでも安く、より良い音の製品を作りたい。そういう「パッション」を感じる会社でした。早速、逸品館でも取り扱いを開始しました。1号館に試聴機も準備しています。価格も2万円強!