StereoSound(ステレオサウンド) 158号「トリノに想うこと」

トリノオリンピックが開幕して約一週間。事前の予想?とは裏腹に日本はメダルを取れていない。果たしてそれは「選手」が悪いのだろうか?確かに、一部の選手からは油断や世間知らずによる自信過剰を感じることがあるけれど、本来全くの「部外者」である我々にそれを責めたりする権利があるはずはない。彼らは一人一人精一杯頑張っているに違いないのだから。
オリンピックが「参加することに意義がある」と言われていた時代が懐かしい。マスコミが煽り、インターネットに代表される「責任を伴わないコミュニケーション」がそれをさらに悪い方向に増長する。メダルを取れたら「賛辞」。取れなかったら「叱責」。日本人はすべてがまるで「えせ評論家」になってしまったかのように、そんな「ゼロ」か「百」に偏った評価しか出来ないのだろうか?選手はもちろん、我々は「マシン」ではない。血が通い、肉があり、何よりも心がある。嬉しければ喜び、哀しければ泣く。喜怒哀楽の中で生きている。歌の文句に出てくるけれど、ふたりでいれば「喜びは倍」に「悲しみは半分」に、それは夢の話なのだろうか?トリノをTVで見ていると、選手が入賞することで「喜び」は倍増されているけれど、「悲しみ」や「苦しみ」は無視され、切り捨てられているように感じられる。大人のエゴや利権に振り回される若い選手達。過去の栄光を引きずらされ、いつまでも表舞台に立たされる老兵。勝てばいいが、勝てなかったときの苦しみや悲しみを、一体どれくらいの理解し、分かち合おうとするのだろう?
人間は「欲」が強く、誰もが一番になりたがる。そのためには、人を殺すことだって平気でやる。マスコミは「言論の自由」という「えせ正義」を振りかざしたら、なんでも許されると思っているのだろうか?彼らがやっているのは「言論という多数の暴力」による「個人という少数の抹殺」に他ならない。血は流れないが、心は確実に傷つけられ、破壊される。そして、一切の責任を取らない。独裁政権の秘密警察がやっていたこととなんら変わりはない。こんな不公平があって良いのだろうか?マスコミはひどい。マスコミは醜い。マスコミは捏造する。インターネットもまた然り。デジタルの世界に「人の心」は、育まれない。私は、インターネットを利用しながらつくづくそう思う。人の心は、こんなにも荒みやすいのだと。
4月1日より、[PSE]マークが貼附されない電気製品が販売できなくなることは、すでにほとんどの方がご存じだろうと思う。いろんな見方はあるだろうが「中古家電品の健全な流通を阻害する悪法」であることに異論を挟む人は少ないだろう。逸品館のように「製造事業所」としての届け出を行っていれば、中古オーディオ機器を自主的に再検査、手直しして再流通させることは可能だというが、そんなことを出来るのは僅かな業者だし、それに伴うリスク(製造者責任の負担)も大きいから、中古オーディオ機器の流通が著しく阻害されるのは間違いない。だがインターネットでの個人売買は規制されないという。おかしな話である。インターネットに流通する家電製品の一部には、明らかに「危険な素人修理」をしたものがある。私自身それは確認したことがあるし、表舞台を規制すれば、悪質で危険な家電製品こそ裏世界のインターネットで流通し、一般消費者にとって「より危険が大きくなる」のではないだろうか?もし、問題が起きたら誰が責任を取るのだろう?出品者?落札者?大変な事故が起きたらその保証は誰がするのだろう?オークションの管理者?きっと誰も責任を取らないだろう。
「きちんとした責任が伴わない」ところでは、人の心は荒んでしまう。我々は弱い。口だけで中身のないマスコミや政府の役人と同じである。強い憤りを感じるし、何とかしたいと思うが、一人の力は小さい。あえて今の平穏な生活を捨て、正義のために闘う気にもなれないという意味では、私自身も無責任な連中とさほどは変わらないかも知れない。しかし、「痛みを知っている」という点だけは違うと言いたい。
私は、可能な限り人を陥れたり騙したりしたくはない。音が悪いと知って高価な機器を売りつけたり、アフターサービスが悪いのを承知で機器を販売したりしたくない。高価な機器を購入すれば、代価に見合うだけ音が良くなるとも幸せになるとも主張したくない。どの機械が「一番(BEST ONE)」であるか、マスコミ(雑誌やインターネット)、まして販売員が決める必要はない。どの機械が「一番(ONLY ONE)」であるかは、あなただけが知ることだ。私は今までも、そしてこれからも「そのお手伝い」をしたいと考えているだけだ。
迷われたら全力で相談に応じるが、決めるのはあなた自身であるという主義は曲げない。薦める我々にも責任はあるが、決定するお客様にも責任はあると考える。頭を下げてものを売るのではなく、可能な限り正確な情報を提供したことへの代価を受け取りたい。ビジネスはフィフティー、フィフティーが健全だと思うから、店頭での試聴ではわからない、実際に自宅で試してみたい、そういう方のためにAIRBOW製品(50万円を超える高額品を除く)なら、ご自宅でお試しいただける無料貸出機を準備している。購入するかしないかは、完全にお客様の自由である。私が主張するオーディオの世界を垣間見るために、一度お聞きになられても損はないと思う。自分自身の利益を守るのも、失敗した責任を取ることも、自分を育てるのも、自分自身でしかできないことなのだから。

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