ホームシアターファイル 37号「「みかけ」にこだわるのをやめたときに「ほんとう」がみえてくる」

「みかけ」にこだわるのをやめたときに「ほんとう」がみえてくる 「メーカーの名前」・「価格」・「人気」・「カタログスペック」・「外観」。そういうものからは、その製品の「本当の良さ」は見えてきません。例えば、この雑誌に掲載されている「メーカーの広告」にも、広告を作った側、つまり「メーカー自体」が「自分たちの作った製品の本当の価値」を知らないなら、詐欺にはならないと思いますが自画自賛を通り越して「よくこんな嘘が平気で書けるな~?!」とか「もし音質や画質が広告通りでなかったら誰が責任取るの!?」というような内容に感じられる広告が少なくありません。読者のインストール例の写真を見ても、画質はともかく「これでは絶対に本当にいい音は出るはずがない!」とため息が出るような事例がほとんどです。取材を受けられた、ユーザーは「自分のシステム」を「いい音」だと思って満足していらっしゃるのでしょう。もちろん、お客様を批判するつもりは毛頭ありませんし、私が口を挟まない方が良いのかも知れませんが、まず間違いなく「最高にいい音」は実現していません。取材を受ける側、取材する側に、「人に薦める」という責任感を持って、事前に「本当によいもの探す努力をもっとして欲しかった」と感じるだけです。本来「モデル」とは、そういう「模範的」なものであるべきです。
なぜ雑誌の記事やメーカーの広告などに対して、私はこんなにも攻撃的で批判的なのでしょう。それは、たかが「ホームシアター」とお考えになるかも知れませんが、そこは「家族全員」が集う団らんの場であると同時に「感性が磨かれる」重要な教育現場でもあると考えるからです。目にするニュースの「リアリティー」。聞き流している音楽の「感動」。映画に込められた、制作者や役者の「メッセージ」。そういう「人の心に触れるもの」・「人の心を動かすもの」を再生する装置だからこそ、普通の家電品と同じレベルで考えて欲しくないのです。その装置から流れる「音や映像」がそれを見る人を感化し、価値観を変え、人生や人格に影響を与えないと断言できるでしょうか?TVやラジオから流れる「音や映像」は、毎日の食事と同じように私たちの「心の健康」に欠かせないのです。だから、私はその「良さ」にこだわるのです。 しかし、残念ながら大きなメーカーであればあるほど、有名なメーカーであればあるほど「販売される製品は、没個性的なつまらない性能」しか持っていない事が多いのです。彼らが作るものは、「売れる」=「食える」という事が重要で冒険は許されません。商品のほとんどは、企画段階から「コスト=価格」や「機能=カタログの謳い文句」といった「みかけ」が決められていて、とにかく「見栄えが良くて、間違いなく売れる商品」を作ることだけに精力を傾けています。つまり「みかけ」優先で中身はお留守なのです。中身ない商品が売れるとすれば、ユーザーには「鑑定眼=商品を見る目」がないということになりますが、実際にそうなのでしょうか?
確かに「画質」は、比較的誰にでも分かりやすく「消費者」にもある程度の「良否判断」は可能かも知れませんが、「音質」となると話は絶望的です。店頭の販売員はもちろんのこと、雑誌の記者、大メーカーの技術者ですら「本当によい音」を聞いたことがなく、判断がまるで当てにならないのです。専門家ですら「聞く耳がない」のが実情です。また、良い生演奏に触れる機会の少ない日本の一般消費者が「店頭などの条件の悪い場所で、瞬時に音質の良否判断」ができるとも思えません。「音質」に関しては「作る側」も「購入する側」もまるで当てにならず、右も左もわからないような混沌とした状況下で製品が選ばれているのが実情なのです。
何も見えない、基準にできるような情報がほとんどない中で、お客様がもっとも頼りにされるのが「価格」や「メーカー名」です。しかし、それがもっとも当てにならないとしたら?どうしますか?繰り返しますが、「メーカーの名前」・「価格」・「人気」・「カタログスペック」・「外観」。そういうものからは、その製品の「本当の良さ」は見えてきません。すべての先入観と無意味なこだわりを捨て「自由な心」で製品に触れ、それが奏でる音や音楽を聴いてみてください。川の流れる音や鳥の声などを再現し、「どれくらい自然に感じられるか」というテストは、音楽よりもその装置の本質を明らかにするはずです。目を閉じてください。素直な気持ちで音を受け入れる準備が出来て、フラットに感性が開かれたなら、きっと「ほんとう」が聞こえてくると思います。「良い音」は、間違いなく「誰にでも良い音」なのです。良い楽器の音は、誰が聞いても素晴らしい音に聞こえるように。


ホームシアターファイル 2006年 10月号 [雑誌]


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