AUDIO BASIC(オーディオベーシック) 45号「「本物の音」を探して」

CDやアンプ、スピーカーは、もちろん電源、インシュレーター、どんな小さなことでも聞いている音は変わってしまいます。ディスクに録音された演奏は「一つ」のはずなのに、万華鏡のように変わる音を耳にして「一体どれが本物の音?」と悩まれたことはありませんか?
では、「本物の音」を考える前に「音楽」がどこに存在するか?を考えましょう。まず、音の中に音楽は存在するでしょうか?答えはNoです。では、演奏は音楽でしょうか?この答えもNoです。では、一体音楽はどこに存在しているのでしょう?それは、プレーヤーとリスナーの心の中です。演奏は、プレーヤーとリスナーの心を結ぶ媒体であって、音楽は、「音」の中に存在するのではありません。
もう少し簡単に説明しましょう。小説を読むときには、文字の形(大きさや書体)が変わっても小説の主旨は正しく伝わります。小説を書いた人がプレーヤー、読む人がリスナーだとすると、文字が音ということになります。つまり、音はプレーヤーの心象を正しく伝えることができるなら、少々変わってしまっても問題はないのです。しかし、文章が変わってしまえば、その内容が誤って伝わるように、再生音にも「変わってはいけない正しさ」が必要とされます。少々音が変わっても、悲しい曲は悲しい曲に、楽しい曲は楽しく伝わらないといけないということです。
音楽は人の心を伝え、人の心を結ぶものです。人の心そのものである「喜怒哀楽」を正しく伝えるためには、音の「対比の正確さ」が何より重要です。大きい音と小さい音の対比。音色の対比。リズムの対比。すべての事象に陰陽が存在するように、音楽は楽音の対比によって伝わります。この対比(音と音の関係)さえ保たれていれば、喜怒哀楽の伝達の精度は、音の善し悪しには関係しないのです。逆に音質の向上によって、一部の音が強調されたり、必要以上に一部の音が細かく聞こえるようになると、この対比の関係(バランス)が崩れ、喜怒哀楽が正しく伝わらなくなってしまいます。「正しい音」それは、絶対的な音質ではなく、相対的な対比バランスの精度が保たれることによって実現するのです。
この対比の正しさは、音の変化の物理状況に比例します。音は出始めから、消えるまで、100%自然な(物理的に正しい)動きをしなければならず、決して自然に逆らうような動きをしてはならないのです。生演奏を再現するためのオーディオのチューニングでは、この点が最も重要だと考えています。(※電気的に発生させられた音は、物理的な痕跡を持たないので、正しく再生することは不可能です。)


AUDIO BASIC (オーディオベーシック) 2008年 01月号 [雑誌]


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