逸品館メルマガ085「オーディオと料理の共通点」

今年の梅雨も、しとしと長雨型ではなく集中豪雨型です。もう「梅雨」という言葉自体がふさわしくなく「雨季」と言った方がふさわしいほどですね。気象の変化から地球が確実に変わっていることがわかりますが、交通機関とインターネットの急速な発達により社会も急速に、そして大きく変わっています。自然の力とはすごいもので生体系は、これほど急激な変化でも対応しています。しかし、人間や動物はこれほど急激な変化に対応できるように進化していません。自然に逆らうことは出来ませんが、過多な情報に流されることなく、心と体のバランスをしっかりと保つことが大切です。時には、情報から自分を切り離して雑念を払い、心のバランスを取り戻しましょう。
最近、楽器を演奏されるお客様とお話をしたのですが「音」に対する「表現」が、二人の間で異なっている事に気がつきました。例えば「硬い」・「柔らかい」という言葉を交わしても、その内容が「一致」しないのです。一般的には問題にならないのでしょうが「音に対する経験」を積んでいる同志だと、それをどんどん「突き詰めて」行くことになります。結果として、完全には一致しないという結論に足します。そこでお客様が一言「言葉に出来ないことを音で伝えるのが音楽だから、言葉で音を語れないのは当たり前でしょう」。まさに、その通り!
しかし、それでも音を何とかして言葉で伝えなければならないのが私たちの仕事です。そこで、よく私は「音」を何か違うものに置き換えて説明します。例えば料理。過去にもこの例えをよく利用してきましたが、私は「料理」と「オーディオ」は、よく似ていると思うのです。
私は「AIRBOW」というブランドを樹立し、その製品の音を決める立場にあります。同時に逸品館の代表として「人が作ったオーディオの音」を評価する立場でもあります。時には料理人として、時にはそれを食するものとして、立場を変えながらそれぞれを評価すると双方の考え方がとてもよくわかるときがあります。そんな私が最近、大変気に入ったのは、スウェーデンで作られる「BLADELIUS」の「SYN」と「TYR」ですが、この製品の音は、彼らが招待してくれた「スウェーデン・レストラン」の味とよく似ているのです。そこで食べたサーモンのステーキは、あっさりとした中にもうっすらと油のコクがありました。この僅かなコクは、日本の鮭には感じられないテイストです。この「うっすらとした油のコク/旨み」が彼らのテイストです。五智その鳴った料理はどれも日本食によく似て、口当たりがよく食べやすいですが、和食にない「動物質的な脂気」を感じました。
Sonusfaberは、イタリア料理に似ています。素材は、日本食と似て穀物や野菜も多いのですが乳製品(チーズ)とワインは、日本食にはないテイストです。日本食では、前者が豆腐で後者が日本酒に相当するのでしょうか?イタリアは「濃く」、日本は「薄い」。そこが違います。もちろん、濃ければ単純にいいと言うのではなく、日本食には薄さの中にもデリケートな味わいがあります。イタリアで作られる、Minima VintageやZingali1.12、Sinfoniaなどは、彼らに独特の色彩感の鮮やかさを感じます。それは、フェラーリやアルファロメオに共通します。
Minima VintageをSyn+Tyrの組合せで鳴らすと、イタリアらしい鮮やかさとスエーデンらしいデリケートさが上手くミックスされて、独特の味わいが生まれます。言葉では、上手く表現できないのですが、「レコード」の音に近く感じます。デジタルでは、これまであまり経験したことのない感触です。言うなれば、新種「創作料理」でしょうか?
最近、私はこのセットでばかり音楽を聞いています。自分が作ったAIRBOWで聞く音楽よりも「多くの発見」があるからです。これも料理と同じで、人が作った「料理」の方が、美味しく感じるのと同じ理由だと思います。決してAIRBOWがそれらよりも劣っているわけではありません。自分の食べたい「味」。好みの「味」は、結局その人にしかわからないので、出来るだけオーディオは音を聞いてからお選び下さい。
料理に味を付けるのが「調味料」です。味には「甘み」・「辛み」・「酸味」・・・・、やはりいろいろな表現があります。音と違って、味の表現の方が「一般的な共通性」は、大きいと思います。しかし、それでも「甘さ」には、様々な種類があります。砂糖の「甘さ」と新鮮な刺身や野菜の「甘さ」は、全く違います。科学的には、前者は「糖分」の後者は「タンパク質」の甘さだからです。さらに砂糖の「甘さ」にも沢山の種類があります「グラニュー糖」と「黒糖」は、全然味が違います。比較的、共通の言葉で語りやすい「味」ですら、こんなに種類があるのです。
調味料をオーディオに例えるなら「アクセサリー」です。少しの味付けは、料理を引き立てますが、やりすぎると壊してしまいます。その微妙なさじ加減を決めるのも「お客様の腕」です。共通の言葉で語りにくい「音」を表現するのが難しい「音」ですから、そのアドバイスもどれくらい難しいか?おわかりになると思います。
このように、言葉に換えることが出来ないほど様々な「音」を出せるオーディオですが、それでも万人が好む「味」が存在するように、誰もが「良い音」と感じる音があると私は信じています。その一つが「Minima Vintage+Syn+Tyr」の音ではないだろうかと感じています。これからも「そういう音」を一つでも多くご紹介して行こうと思います。

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