Marantz PM15S1/SA15S1をベースにAIRBOWの新しい製品の開発に取り組んでいます。これまでのチューンナップは、「ブラックゲート」という電解コンデンサーを大量に投入し、他にはない「明晰な音」に仕上げるという手法でした。しかし、ブラックゲートは製造メーカーが去年の8月に予告なしに廃業したため継続的な入手が不可能となりました。幸いも廃業寸前にかなり大量のブラックゲートを確保できたため、すでに生産した製品の修理や、ここままのペースなら5年以上は、従来通りブラックゲートを使った「音作り」を続けられる見込みが立っていますが、さらなる将来を見越した場合ブラックゲートに頼らないチューンナップも研究しなければなりません。今回の新製品では、その実現に向けた新たな音作りを行っています。
ではなぜ、たかが部品の一つでしかないブラックゲートという電解コンデンサーにこれほどまでこだわるのでしょう?それは、コンデンサーがオーディオ機器の音質を最も大きく左右するパーツだからです。
一般的には、「回路」・「IC」・「ボリューム」などを測定して得られる「数字上のスペック」が機器の性能を左右すると考えられています。しかし、それは違います。どんなに回路が優れていても、どんなにパーツが優れていても、スペックが優秀でも、すべての「相性」がきちんと合っていなければ、いい音は出ないのです。たいていの場合、海外製品は国産製品よりも簡単で安いパーツしか使っていませんが、それでもいい音が聞けるのは、一つ一つのパーツが聞きながら慎重に選ばれているからです。
このスペックに頼らない音作りを、身近なものに当てはめて説明しましょう。例えば機器を買い換えたり、ケーブルを変えたり、インシュレーターを変えれば、システムの音質は大きく変わります。その時、機器が回路やICに相当するとすれば、電解コンデンサーはケーブル類に相当するとお考え下さい。音楽信号が通過する「カップリング・コンデンサー」はインターコネクトケーブルに、「電源のコンデンサー」は電源ケーブルに当てはめられます。
最近、AETの高価なケーブルがよく売れていますが、それは「機器のスペックを変えることのないケーブル」でも「音が大きく変わる」ことを皆様がよくご存じだからです。同じようにオーディオ機器の中にあって「コンデンサー」は、全体の音質を左右するほど大きな影響力を持っています。にもかかわらずコンデンサーは、多くの場合非常に軽視されています。未だに音響関係の大学教授ですら「ケーブル」や「コンデンサー」で音が変わるのは「気のせいだ」と言い張るような、レベルの低い常識がまかり通ることがあるほどです。彼らの耳では、ケーブルやコンデンサーによる音の変化が聞こえないのでしょう。測定ばかりしているから、目でしかものを見ないから、そんなばかげたことが言えるのです。その彼らの発言は新聞や雑誌で取りあげられ、それが誤った見識として定着します。
そのせいかどうかは知りませんが、100万円を遙かに超えるオーディオ製品に使われている「コンデンサー」ですら、市販されている最廉価のオーディオケーブル程度の恩師腕しかない事が多いことにがっかりします。端子、筐体、ボリューム、トランス、使用している素子(トランジスターやIC)には、結構なコストをかけるのに対し、もっと大きく音質を左右する電解コンデンサーやフィルムコンデンサーには、それと比べて僅かなコストしかかけられていません。高価な製品でも見えない大切なところにお金がかかっていないのです。それでは、価格に見合ういい音は出せません。ブラックゲートの販売が芳しくなく、結果としてメーカーが廃業に追い込まれたのも、ほとんどのオーディオメーカーが価格を理由にブラックゲートを採用しなかったからです。では、最も安いブラックゲートの価格はいくらでしょう?たった80円です。では、100万円を越えるアンプに使われている電解コンデンサーの価格は?その1/10程度です。
時折、様々なメーカーが「パーツメーカー」と組んでオーディオ専用パーツを開発して使っていますが、そのほとんどが「高いだけで音は市販品よりも悪い」というお粗末さだということも付け加えておきたいと思います。ヒヤリングして作ったと主張するパーツの多くも「一体どうやったらこんな変な音になるの?」というものがほとんどです。過去にもこのような話を何度も繰り返していますが、多くの高級オーディオ機器は、良い音を実現できる理想とほど遠い状態なのです。逆に考えるなら、機器が完璧でないからこそお客様は高価なオーディオアクセサリーを購入しなければならないのです。おかしな話ですが、それが現実です。
後付で外部から機器に高価なアクセサリーを追加するくらいなら、それよりも「機器の内部に直接そのコストを投入したなら、もっと大きな効果が出るはずだ」と考えられませんでしょうか?それを実現しているのがAIRBOWです。AIRBOWのチューンナップ製品は、お客様が高価なオーディオケーブルを購入し、システムの音質を改善するのと同じ事を「機器の内部で行った」製品なのです。
このようにAIRBOWのチューンナップには、機器の回路を変更しないで交換可能なIC、抵抗、配線などあらゆる高音質パーツを使用します。チューンナップを効果的に行うためには、「高音質パーツ」をできるだけ多く所有することが重要です。ブラックゲートの生産完了に伴い、その代替を求めあらゆる種類のコンデンサーを世界中から取り寄せて(その費用だけでも、軽く数百万円を超えます)音質テストを行いました。幸いにも、ほぼ納得の行く音質のコンデンサーを複数探し出すことができました。しかし、それでも単独の音質ではブラックゲートに敵わないことがあります。そこで最新のAIRBOW製品は、従来にも増して「パーツの相性」を徹底的に追い込むことで、ブラックゲートをほとんど使わなくても、従来製品と同等以上の音質を実現することが可能となりました。
話をPM15S1/SA15S1の開発に戻します。この2機種は、従来AIRBOW2chチューンナップ製品のベースに許されていたMarantzの10 万円未満の機種に比べ、内部にコストがかけられているのはもちろんですが、なによりもランドフォルムを採用したその外観が非常に美しいのが特徴です。この仕上げなら、国内外の20~50万円程度の製品と比較しても引け目を感じることはありません。また、今年の年末にモデルチェンジ予定されていることもあって、仕入れコストがかなり安く、これらの利点を生かせば、25万円程度の販売価格で単価50~100万円クラスの高級機器に匹敵する品質の製品の完成も夢ではありません。
今回のメルマガで、その発売を予告するのは開発がすでに成功した証ですが、その開発中に面白いことに気付きました。私は、サブウーファーの調整で「低音を聞くのではなく、中高音を指標にする方がわかりやすい」と説明しましたが、機器の音決めにも、その方法が使えることがわかったのです。
チューンナップ時に、内部の部品を変えるとケーブルを変えたのと同じような音質変化が起こります。低音が出たり、高音がハッキリしたり、スピード感が上がったり、まあそんな感じですが、重要なのは、高音が変化したときは低音を、その逆に低音が変化したときは高音を集中して聞き分けるほうが音決めを確実に行えるのです。それは良いツィーターを使うと低音の力感が増し、良いサブウーファーを使うと中高音の明瞭度が上がるのと同じ感覚です。
具体的にどのような聞き方をしたかご説明いたしましょう。今回音決めのマスターソースに使ったのは、Marantzが2002年に作ったSACDのデモディスクです。1曲目は、パイプオルガンです。パイプオルガンは、大型のリコーダー(縦笛)が集合して作られていますが「共鳴部の構造が単純」なために、バイオリンなどの弦楽器に比べて音が単純で分析がやりやすいという特徴があります。今回私は、パイプオルガンの音を「空気が音になる歌口部分の音(シャーというようなノイズのような音)」と「パイプ部分の共鳴音(ボーと言う酒瓶を吹いたときのような音)」と「教会に共鳴する低音(パイプオルガンらしい低い音)」に分け、それぞれを順に「高音」「中音」「低音」と表現します。
ある部位のコンデンサーやパーツを交換すると、高音がハッキリし、音に切れ味が出たとします。この時に変化して聞こえるのは「高音」ですが、あえてそこではなく「中音」と「低音」だけを聞くように意識します。最適な「高音」が出ると「中音」と「低音」の量感と情報量(音の細やかさ)が一気に増加します。パーツの交換で「高音」にほとんど変化が感じられなくても、「中音」「低音」の雰囲気や質感が変化することがあります。個別の音ではなく、それぞれの「バランス」や「タイミング」が変化するのです。
このディスクの2曲目には、「鐘の音」が入っています。パイプオルガンが上手く鳴ると「鐘の音」の叩いたときの音と響きの余韻の重なりの「バランス」が改善され、鐘の厳かで美しい響きが再現されるようになります。それに続いて収録されるチェロやピアノも同じで、楽器の音の響きと音色が俄然美しく複雑に聞こえるようになります。影になって聞こえなかった音が表面から透けて見えるような感覚です。
チェロとピアノの間に収録されている弦楽は、楽器の数=音の数が多すぎて、個々の音を個別に聞き分けられません。それでも、バランスが整うと、曲の抑揚感が大きく増大することで、音質の改善が感じ取れます。聞くのではなく、感じるのです。このヒヤリングの方法は、皆様の音決めにも使えます。ハイライトされている音ではなく、影の音を聞く、表面化にある音を聞きながら調整する。それが大切です。
もちろん機器内部の1個の部品の交換ではそれほど劇的な変化が起きないので、そのヒヤリングは非常に難しいものです。しかし、その困難を乗り越えて、音質バランスが「MAX」に達したとき、驚くべき変化が起こります。あたかも水道の蛇口を全開にしたかのように、耳に聞こえる音、感じられる音の「数(量)」が一気に増大します。ハイライトが当たる音の影に隠れていた音が聞こえるようになったときの、凄い情報量の増加は口で説明できないほどすさまじいものです。ガラスを磨いていたら、ガラスが完全に消えてしまった。そんな感覚かも知れません。
ガラスが完全に消える感覚。それは本当に微妙な、些細なバランスの上に成り立っています。PM15S1のチューンナップが完了したとき、さらに上を狙って内部のスピーカー出力ケーブルを「スズメッキ銅線」から「AET SCRクラス」に変えてみたのですが、結果は最悪でした。音は細かくなりましたが、力がなくなり、前後方向への立体感も消えてしまったのです。私は自分の耳を疑いながら、もとの「安物」のケーブルに戻して見ると、見事に音質が蘇りました。 AETの名誉のために付け加えますが、これはSCRが悪いのではありません。回路の出力からスピーカー端子に接続されているケーブルを交換したことで「僅かなC分の変化」が起こり、その結果フィードバックのタイミングがずれてしまったためだと考えられるからです。
私には、増幅回路の入り口から出口まで一本のロープのように見えます。このロープを鞭のように美しく振動させるのが回路のチューニングです。現実の鞭の先端には、小さなウエイトが付いていて、その「微妙な重み」に合わせて鞭をしならせるように振ります。もし、ウエイトの重さを変えると鞭はしならなくなります。SCRをこの重りに例えると、SCR高性能すぎて重量が足りなかった(音がスムーズに通り過ぎた)ために、アンプが音を送り出すタイミングをずらせてしまったのです。結果として音がずいぶんと悪くなってしまいました。そうイメージして下されば、ご理解頂きやすいと思います。もちろん、最初からSCRを使ってチューニングの開発を行えば、結果は違ったものになったでしょう。
今回のメルマガの話をまとめます。オーディオセットから「情報量=音の細やかさ」を引き出すためには「バランス」が何より肝心です。それを確認するには「最も変化した部分の影に隠れている音」に注目してヒヤリングを行う事が大切です。「バランス」を整えるためには、時にはあえて「高音質な機器やケーブル」にこだわらない「勇気」が時には要求されます。
PM15S1とSA15S1のプロトタイプ(音質的には完成)は、現在3号館に1SET展示しています。その音質と外観に見合うよう、従来モデルと異なる「格好の良いバッチ」をご用意しているため、発売までにはもう少し時間がかかりそうです。価格は、各25万円(税込)を予定しています。ご期待に添えると思います。
-
最新の投稿
-
女子部はみんなFF派!ファイナルファンタジーXIII