前回のこのコラムでは「聞こえない音の大切さ」と題して、サブウーファーの追加がピュアオーディオの音質向上に大きな効果があるとお話しました。逸品館がお薦めするaudio-pro B2.27mark2を追加すれば、低域の量感が増えるだけではなく、音楽表現のダイナミックレンジが大幅に拡大します。かなり高級なスピーカーと組み合わせても低音のみならず、中高域の明瞭度や伸びやかさが改善し、声の抑揚、楽器のパワー感、音場の立体感などの音楽表現に関わる重要な項目がワンクラス上のスピーカーに買い換えたのでは?と思えるほど良くなります。このドラスティックな変化は、それを実際に体験しないと決して信じられないほど素晴らしいものです。
ではなぜサブウーファーを追加したことで中高音の質感が改善するのでしょう?一般的にオーディオの世界では、生の楽器と再生音を比べたときに劣化しているのは「高域」だと考えられています。この考えに基づいて「高域を100KHz」まで収録可能としたのが、新世代のフォーマットSACDやDVDオーディオです。しかし、それらは広まることなく衰退しました。なぜでしょう?メーカーが言うような「高音質」が得られなかったからです。この「大失敗」を省みずSACDの登場から10年余りも経たないうちにメーカーは、またしても「100KHzが収録可能」を謳い文句にしたBD(ブルーレイ)を登場させました。SACD/DVDオーディオの音質が受け入れられなかった「原因」を追求することなく登場させられたBDの音質が、それらよりももっと期待できそうにないのは言うまでもありません。
では、なぜデーター的にはCDを遥かに超えるこれら新生代の高音質フォーマットの音質が悪いのでしょう。それは「高音」の改善に比例して、「低音」を良くしなかったことが原因です。人間は測定器のように音を帯域に分割して聞いているのではなく、全体像を受け取っています。例えば、TVの画像でシャープネスを上げるとハッキリしますが、奥行きが損なわれ全体がザラザラします。このような「バランスが崩れ不自然になった映像」からは、情景が伝わりませんし、目も疲れます。低音を改善せず、高域ばかりを改善した「音」もこれと同じです。
確かにスピーカーの進歩によって、比較的小型のトールボーイ型スピーカーからかなりの低音が得られるようになりました。しかし、20KHzを大きく越えるほどの「過剰な高域」に対して必要となるのは、それらから得られる「実在感の薄い低音」ではなく、体を震わせ、肌に感じられるような「空気の動き」までも感じさせるほどの「超低音」なのです。
ご自身のオーディオセットを振り返って下さい。中低音よりも高音の改善ばかりに力を割いていらっしゃったのではないでしょうか?オーディオアクセサリーの選択でも「耳に聞こえる中高音の明瞭度」ばかりに気を取られていらっしゃったのではないでしょうか?そういう高音ばかりの改善に終始すると、音は躍動感と立体感を失ってしまいます。音は綺麗に細かく聞こえるようになったけれど、最近なぜか音楽に力がない。音は良くなっているはずなのに、音楽が楽しく聴けない。などと感じられたら、それは完全に「高域過剰」に陥っています。そんな時には、高音を元に戻し、中低音の充実を図って下さい。再び音楽が楽しく聴けるようになるはずです。
Audio Accessory (オーディオ アクセサリー) 2009年 01月号 [雑誌]