逸品館メルマガ185「坂本龍一ライブ」

バラッド社のご招待で「坂本龍一、大貫妙子、UTAUコンサート」に行ってきました。このコンサートはピアノ伴奏:坂本龍一、ボーカル:大貫妙子という「二人のユニット」で行われる比較的小規模なコンサートです。音にこだわっているのも大きな特徴のようで、坂本龍一は自前のピアノ(ヤマハの坂本龍一オリジナルモデル)を持ち込んでいます。
彼がコンサートの音響設備に選んだスピーカーが「Musikelectronic Geithain(MEG) ムジーク・エレクトロニク・ガイザイン社」の製品で、この製品の輸入を行っているのが「バラッド社」です。

バラッド社はハイエンドショウ2010秋でもブースを出していましたが、その「音の良さ」は逸品館と並んで好評でした。実際、コンサートでの音作りも抜群で「ステージ上のピアノだけからしか音が聞こえない=スピーカーの存在が完全に消えている」という理想的な音響が実現していたことに大きな驚きを感じました。
坂本龍一といえば世界的に有名なアーチストですが、個人的にはあまり「ピンとこない」感じのミュージシャンでした。つかみ所がないというか、なんだか実像がぼやけているのです。正体がつかめない?何を言いたいのかわからない?そんなイメージでした。
実際、今回の演奏もほとんどが「アンニュイ」な感じで、結局最後まで「彼らは何を伝えたかったのか?」全くわかりませんし、覚えてもいませんでした。ただ「美しい音に囲まれた幸せな時間を過ごせた」という記憶だけが残っています。この感覚はクラシックのコンサートを聴いた後に感じるのと同じで、POPを聞いた感覚とはまるで違います。しかし、コンサートを聞き終えて心がずいぶんと軽くなったので、出かけて良かったと思います。
コンサートで新しい発見もありました。まず、捕らえどころが感じられなかった坂本龍一ですが、生演奏で聞いた彼のピアノは美しかった!ヤマハピアノからあれほど繊細な音色を出せるピアニストは、世界広しといえども彼を除いてそうそういないだろうと思います。確かに最高域と最低域は相変わらず硬く、音色が単調な「ヤマハ特有の音」で、その点ではちょっとがっかりしました。また、あれほど美しい音を出せるピアニストならば、自身でそれをわかっているはずです。
もし、スタンウェイやベーゼンドルファー、もしくはヤマハでもCF2(使われたのはCF7のカスタマイズモデル)を使えば、もっとバランスの良い音色が出せたはずだと思ったからです。でもコンサートの終了後、「プロフェッサー(坂本龍一の愛称)は、あの音にこだわりがある。高音と低音がゴージャスになると、演奏が完全にクラシックになってポップスらしさを失ってしまうから、わざとチープな音を残している。(真偽は明かではありません)」と聞いて、納得できました。その説明通りの音が出ていたからです。
それに比べるとボーカルのPAは最悪でまるで「カラオケ並」の音でした。だから、美しいピアノの音ばかり耳に入って「歌詞」がまるで聞こえなかった(脳に届かなかった)のです。しかし、もしかするとそれも「狙い」なのかも知れません。なんていったって、日本を代表する重鎮が二人そろったコンサートなんですから。しかも、ご招待席なので場所は「一番良い場所」です。
こんな感じで「演奏」と「音」には十二分に納得できた演奏でしたが、奏でられた音楽が「一人で聞くのにふさわしい(みんなで共有するようなテーマではない)曲」だったことと、観客のマナーが最悪だったために、数々の発見はあったものの「音楽はオーディオで聴く方が好き」という、私の気持ちを変えるには至りませんでした。
私はコンサートがあまり好きではありません。それは周りの雑音が気になって、自分の集中が保てないからです。今回のコンサートでも、演奏中時を構わず「咳」をする人が複数居ました。それも口をふさいでいないことがわかるはっきりとわかる!大きな咳を連発するのです!最悪だったのは、アンコールの1曲目「戦場のメリークリスマス」をプロフェッサーが細心の注意を払って完璧な音で演奏し始めた瞬間に「コンサートが終わったらどうする?」らしき相談を近くの「若い女性」が小声で同伴者と始めたことです。美しい時間と最高の緊張感は、一瞬で壊れました。
結局1分以上ぐちゃぐちゃしゃべったあげく(小声は静かな空間では逆に気になる)、やっと黙ったと思ったらとなりの男がちょっかいを出したのか「いやらしい、なにするの?」的なことを言い始め、アンコールとコンサートで紅潮した気分が台無しになりました。
心ない人は来なければいい。心からそう思います。でも、それは叶わないことなので結局「自分が行かない」という選択しか残されません。ほんの一部の人たちだけですが、ライブやコンサートのマナー楽しみ方が最悪の方がいらっしゃると思い、とても悲しくなりました。マナー違反、ルール違反をはばからない一部の人間がすべてをだめにする。まるで、今の日本の悪いところを見るようです。
その点「自分の自由になるオーディオ」は、まず裏切ることがありません。だから、私はコンサートよりもオーディオで音楽を聴くのが好きなのです。嫌な思いをする危険を冒してもコンサートに行くか?怖がって引きこもるか?それは自由です。しかし、外に出なければ新しい発見はありません。数日もすれば嫌なことは忘れられます。だから、コンサートはこれからも“選んで”行くでしょう。第一、逸品館の社長が生演奏を聴かないなんて、洒落にもなりませんから!

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