———————オーディオの発達と音楽の関わり———————
・音楽を構成する要素
生演奏よりも大きな音量で音楽を再現できるようになったことが、なぜオーディオ機器のあり方を根本的に変えたのかその理由を今度は録音される側、音楽から考えます。音楽は、音が変化することで伝わります(音楽は音の変化で成立する芸術です)。音楽に必要な音の変化には、「高低」と「大小」そして「音色」があります。物質を構成する最小単位が原子ですが、すべての「音」は、「高低」・「大小」・「音色」の組み合わせで構成されると考えられます。これを「音の3原子」と呼ぶことにします。
・原音忠実再生は存在しない
完璧な録音再生とは、この音の3原子を正しく記録しそれを忠実に再現することです。これをオーディオマニアは「原音忠実再生」と呼び、オーディオのゴールと考えています。しかし、それは架空の世界の話で現実に録音された音が「そのままの状態で元に戻ること」は物理的にあり得ないことです。記録された音声信号を音に変換するのがスピーカーですが、現在のスピーカーなら音の3原子の中で「人間が音楽を聞くために必要とする音の高低」は、ほぼ完全に再現できると考えられます。そして「大小」に限れば、生音を拡大する(原音よりも大きな音が出す)ことさえ可能です。これに対し残された「音色」の要素はどうでしょう?
・音色とは何か
それでは、「音色」について考えましょう。1円玉、10円玉、100円玉の3種類の硬貨をそれぞれ何枚か用意します。1円だけを手の中で振ると、鈍い「アルミ(純アルミニウム)」の音がします。10円玉はそれよりも硬くて密度のある「青銅(銅/錫/亜鉛)」の音がします。100円玉はさらに硬く響きの引き締まった「白銅(銅/ニッケル)」の音がします。このように物質はそれぞれに固有の「響き」をもっています。これを楽器に当てはめて考えましょう。クラシックギーターにはナイロンのゲージ(弦)を使いますが、仮にこのゲージを金属に変えるとギターの音は全く違うものになります。この音の「大小」・「高低」とは関連のない音の質感の変化を「音色」と読んでいます。金属だけではなく、楽器に使われる木材(ボディー部)もそれぞれ固有の音色を持っています。
・オーディオ機器固有の音色
スピーカーでは「音色」はどのように再現されるでしょう?ウーファーやスコーカーの材質を変えても、再生される楽器の音色はあまり変わりませんが、ツィーターの材質を変えると楽器の音色は変化します。例えば薄い布を使ったツィーター(テキスタイルツィーター)の再現する弦楽器の音色は滑らかで艶やかですが、それを硬い素材を使ったツィーター(アルミ、マグネシウム、ベリリウム、ダイヤモンド、チタンなど)で再生すると、硬くクッキリした音色に変化します。もしツィーターに加工される前の素材を叩くことができれば、素材に固有の「音色」を聞き取ることができるでしょう。素材が薄く加工されたことで素材固有の音色は薄まりますが、それでも私達にはツィーターに使われる素材固有の音色が感じられるのです。
このようにスピーカーだけではなく、真空管やトランス、抵抗やキャパシタなどオーディオ機器を構成するそれぞれのパーツは特有の音色を持っています。
次号に続く————————————————————————