音の濁りを減少するための重要なポイント
私達は脳で音を聴いている
普段は気に留めないことですが、振り返れば自分が興味を持つ音(例えば友人や家族の声など)を最優先に聞いていた経験は誰にもあるはずです。
私達は耳に届いた空気の振動から必要な情報をとりだしたり、記憶と関連づけたりしながら、脳がリアルタイムに情報処理を行って音波(鼓膜の振動)を再構成し、音として聞いています。つまり、私達の聴覚は測定器のようにすべての音を公平(フラット)にとらえているのではなく、耳は個性にあふれ、合理的で利己的な選り好みをしながら「聞く音」と「聞かない音」をハッキリと区別しているのです。
音楽を聴くときにも、この選り好みを体験できます。例えば、ギターの弾き語りを聴いているとき「ギター」の音だけを抽出して聞くことは、私達にはとても簡単です。しかし、相当高度な音響用コンピューターを使っても、リアルタイムに「ギター」の音だけを取り出すことは出来ないのです。これらの経験や、働きはすべて「私達が脳で音を聴いている」証明なのです。
当然、百人の人がいれば百の聴覚は一つとして同じ特性ではなく、また同一人物であっても時間と共に耳の特性は刻一刻と変化しているのを忘れないでください。自分に聞こえる「音」が、同じように人に聞こえているわけではありませんし、先程も述べたように、同じ音が思いこみによりまったく違う音に聞こえてしまうことすらあるのです。(詳しくはステップ[2]をご覧下さい)
オーディオの再生音の混濁感を改善し、分解能や空間の透明度、広がりなどを改善しようと試みるときには、この「選り好み」あるいは「抽出」という、人間の聴覚特有の働きを考慮することが大切です。混濁して聞こえるということは、裏を返せば特定の音だけを抽出しにくい状態なので、混濁感を減少させる(透明度を増す)ためには、音を分離して聞き取りにくい場面を考え、そうならないように音質を改善すればよいのです。
でたらめに高額なオーディオ・アクセサリーを試すのは、健康食品や化粧品を価格で選ぶのに似ています。無駄な試行錯誤を繰り返し時間と金銭を浪費する前に、「ギター」と「歌声」をいとも簡単に分離できる私達の優れた聴覚がどういう障害により、音を分離できなくなってしまうのか、その理由を見いだして的確な対処法を論理的(科学的)に解明すれば、より早く「良い音を聞きたい」というゴールにたどり着くことができるはずなのです。
ホールにあるオーディオ再生のヒント
人がたくさんいる「ホール」では、特定の人の話し声だけを聞き取りにくいものです。ここに大きなヒントがあります。「類似する音は分離して聞き取ることが難しい」という点と「響き(残響)が多い環境では音を分離しづらい」という2点です。
しかし、同様に残響の多いコンサートホールでも、腕のいい交響楽団の音は透明に分離して聞こえています。それは高度な技術を駆使して「作りだされた結果」であって、誰でもがそのように演奏出来るわけではありませんが、この「実演」とオーディオによる「再演」には、音響的に非常に密接した関係があり、その関係を解明できれば自室をコンサートホール並みの高音質空間に変えることが可能となるのです。
透明なエコーと、濁ったエコーの違い
では、最初に「透明に分離したエコー」とは一体どういうものなのか考えてみましょう。オーケストラの生演奏を聴いているとき、たくさんのバイオリンの音の中から特定の奏者の音だけを聞き分けることはとても難しいことです。しかし、同じオーケストラでも異種の楽器の音や、トライアングルの音なら沢山の音の中からその音だけを分離抽出して、ハッキリと聞き分けることができます。異質の音は分離して聞きとれるのです。
つまり、「同種・同質の音」の重なりは分離しづらく、エコーを濁らせる原因となりますが、「異種の音」なら重なっても濁りの原因とはならないのです。では、私達は一体どのような音を「同質」だと感じ、どのような場合に「異質」だと感じているのでしょう。
人間が音をとらえるメカニズムを少し分析してみましょう。私達の耳には「有毛細胞」と呼ばれる毛の生えた組織があり、鼓膜を振動させた音波は「特定の有毛細胞の毛」を共鳴させるように振動させます。つまり、私達の耳は「色々な周波数に対応した音叉の集合体」のようなものなのです。
たくさんの音が耳に入ったとき、音は瞬時に周波数別の振動エネルギーの分布に分解され、この周波数別の振動エネルギーの「分布の状態(パターン)」が類似している音を、私達は「音色がにている」と感じ、そうでないなら「異質な音」と感じているのです。
「有毛細胞」による刺激の受け方を、皮膚感覚に置き換えてみましょう。腕の表皮に2本の指を1㎝程度離して軽く叩いても1本の指の刺激とは区別できません。つまり、隣り合うように近接している「有毛細胞」が同じように刺激されても、その刺激を別々なものとは感じ取れないのです。すなわち、周波数が非常に近い音を分離して聴くことは出来ないということです。
しかし、指の間隔を20㎝程度離して同じ刺激を与えれば、明らかに別々な刺激として感じられることから、二つの音波の周波数が離れていれば、私達はそれを「別なもの」と感じ取ることができることがわかります。
また、指の間隔が非常に近くても叩くタイミングが違えば(刺激に時間差があれば)「二つの刺激」として感じられることから、聴覚が音を分析するときには、時間と周波数スペクトラムの関係が重要であることがわかります。
つまり、音が耳に入った時、周波数スペクトラムが近い音波は分離しづらく、逆に、周波数スペクトラムが異なっていれば同時に耳に入っても分離できるのです。この音波に固有の周波数スペクトラムが「音のパターン」として記憶されるのです。この「記憶された音のパータン」の違いに注目しながら聴覚は、連続して音を分析しています。これが、「音を聞いている」という状態なのです。
ですから、同じ声でも「周波数スペクトラム」の異なる「男性」・「女性」・「子供」の声は難なく区別できるのです。
声に関わらず楽器でも、指揮者のすぐ側にいるバイオリニスト(コンサートマスター)の「バイオリンの音」が背後の大勢のバイオリニストの音に混ざらず聞きとれるのも、同じように「周波数スペクトラムの構造(倍音構造)」が異なるように演奏されているからなのです。
音の透明度を向上させるために
ゴースト歪みの発生を抑える
いよいよ本題のオーディオの音質改善に話を進めましょう。響きを分離しづらくする原因は、同種の音(近似する周波数スペクトラム)を持つ音だということが分かりました。異種の音、つまり再生されている音と無関係に発生している「ノイズ」は音を濁らせないのです。その良い例が「古いCDなどに録音されているテープのヒスノイズ」です。このサー音やシャー音は、私達が音楽を聴くときの大きな妨げにはなりません。
しかし、機器内部やリスニングルームで音が反射して生じる音波は、私達の耳に届く再生音波のコピーなのですから、当然、再生された音と非常に近似する音響パターン(周波数スペクトラム)を持っています。しかも、反射により信号は遅延しているわけですから、ホールで大勢の人が一斉にしゃべるような感じで再生音をマスキングし、エコーを濁らせ、音を悪くする大きな原因となっているのです。
ゴースト歪みを低減するための筐体の設計
「ゴースト歪み」は、フィードバック回路などの「電気的な信号の遅延」だけからではなく、オーディオ機器のあらゆる物理的な接触点での「物理的な信号の反射、遅延」によっても発生しています。例えば、アンプを支える脚、筐体に部品を固定しているネジなどの金属接触部分では、「音響振動の遅延」や「共振」、「接触面の鳴き」による「ゴースト歪み」が発生しています。
この歪みの発生原因は「接触面での振動による音の反射」が主因であると考えられるので、接触面の「振動」を何らかの方法で抑制することができれば、音質の透明度は大きく向上するはずです。
しかし、振動を抑制するといっても「振動面に柔らかい材質」のゴムなどを使えば、「物理的な振動発生の基点となる物理的なアース(振動の節)」がグニャグニャと不安定になるため、「音の芯」がなくなったり、もやもやとぼけた音になってしまうでしょう。
そこでTERAやLUNAでは、最も振動を受けやすい出力ICの固定に、金属の強度とゴムのような振動抑制力を併せ持つ「ブラックメタル」という素材を使用しています。ブラックメタルを使えば、「物理的なアース」の安定度を低下させることなく、「濁り」だけを消去することが可能なのです。
- AIRBOW La MUSE
- クリプトン社 ブラックメタル
また、ブラックメタルを使用できない箇所には、AIRBOWとクリプトンの共同開発により生み出された、「La Muse」(ラ・ミューズ)を使用しています。「La Muse」は、すでに発売されているカーボンダイヤトニックと同種の製品ですが、ダイヤをコーティングしているカーボンの柔らかさが響きを消しすぎることに注目し、「大量のピュアダイヤモンド」をカーボンダイヤトニックに混入することで、接触部分の隙間をダイヤで固定し「物理的アース」の安定度を確保するように配慮されています。
この「La Muse」は、ベースオイルのスクアランが「音響ダンパー」として働き不要なノイズだけを効果的に抑制し、地上で最も硬いピュアダイヤの粒子が接触面の隙間を埋めて振動を抑制し、さらにカーボンコーティングダイヤモンドの働きで電気的な導通も改善出来るという、非常に合理的ですぐれた液状音質改善アクセサリーなのです。
2001年にブラックメタル製の「ワッシャー(φ3mm/4mm)」が発売されました。これはネジをブラックメタル製に取り替えるよりも安価にすみ、また特殊な長さや形状のネジに対しても、ネジ穴の大きささえ合えば使えるなど汎用性が高くなっています。効果はネジを取り替える場合よりは、若干低く感じますが、このワッシャーを使って「制振対策」をおこなうことで、音のにじみや濁りを大幅に軽減することができます。
しかし、このワッシャーも使いすぎると機器内部での「エコーの発生」が完全におさえられ、再生される音楽が無響室でスピーカーを聞くようなモコモコと生気のない音になってしまいますので、くれぐれも度を超さないように加減に注意してください。
効果的な機器の設置方法
響きを消すだけでは、音は良くならない
筐体や回路での「鳴き」の発生をおさえるために、ネジやワッシャーを取り替えるためには、オーディオ機器をばらさなければならず、専門的な知識が必要とされます。しかし、筐体の「響き」は「脚」を介して大地に「物理的にアース」されていることを忘れてはいけません。
つまり、「脚」の材質と取り付け位置は、筐体の「響き(鳴き)」に大きく影響しているのです。いわば車のサスペンションに相当しますから、この「脚」をチューニングすることは「ゴースト歪み」を低減し、音質を向上させるための良い手段なのです。では、どのような「脚」が「ゴースト歪み低減」に有効なのかを考えましょう。
結論から先に述べるなら、インシュレーターに求められるのは「振動を抑制する能力」ではなく「響きを調和させる能力」なのです。響きを抑制するためだけなら、ブチルゴムやソルボセインなどの響きを完全に吸収するゴム系のインシュレータが最適だということになりますが、振動を殺すだけでは音の生気が殺がれ鬱々としたおもしろみのない音になるというのは前述したとおりです。
また、このような柔らかいインシュレーターは、音の輪郭成分である「パルス性」のエネルギーの「角を丸く」してしまうので、明瞭度が低下して音がもやもやしたり、一聴すれば濁りが取れたように感じられても、濁りと共に「空気感」や「音楽の気配感」なども一緒に消されてしまうことが多いのです。 これは、インシュレーターのみならず「オーディオ・ボード」にも同じことが当てはまります。大地の振動と切り離されるように浮かされる形で機器を支えるような、インシュレータやオーディオ・ボードは、まず間違いなく「空気感」や「気配感」に必要な「極微少な信号」を損ね音数を減らしてしまいます。
結果として、音楽をつまらなくしてしまうことがあり、そのような考えで作られているアクセサリーは選ばない方が無難です。また、これらの製品を試聴する際には「音の細やかさや、気配が失われていないか?」十分に注意してください。
インシュレータの選び方
柔らかい材質のインシュレーターやボードの音が良くないという説明をしましたが、ではどのような特性を持つ製品がインシュレーターやボードに適しているのでしょう。
- 筐体をブレさせずに強固に固定できる「強度」
- 筐体から伝わる振動を嫌な形で反射させない「響きの良さ」
- 筐体全体の響きを整える「響きの調和」
まあ、だいたいこの3点をおさえておけば、概ねインシュレーター選びは間違いないと思います。
第1番目の条件の「強度」を満たしているかどうかは、インシュレーターやオーディオ・ボードを拳などで叩いてみればすぐにわかるでしょう。鈍い音が返ってくるような響き方をする製品は強度が不足しています。
市販のオーディオラックの「棚板の音質チェック」にもこの方法は使えます。ボードを叩いたときに、ボーンと響くような製品やパンという高周波の音が反射して聞こえるような製品は選ぶと後悔するはずです。ゴンッという詰まった重めの音がするのが、基本的に選んで失敗の少ない製品です。低密度のパーチクルボード(集成材)を使ったボードはあまりよくありません。音がスカスカになってしまいます。
一番良くないのは、振動吸収力の弱い「密度の低い材質」の上に「密度が高く薄い材質」を貼り付けている「オーディオ・ボード」や「棚板」です。それは、「太鼓」の上にオーディオ機器をのせるようなもので、表面の材質の響きがそのまま再生音に盛大に反映されてしまうのです。T社のラックやオーディオ・ボードがこの良くない代表にあげられます。(それなのに薦める店や雑誌が多いのはどういうことなのでしょう?)
お薦めのインシュレーター
硬くて響きの発生が少ない理想的な材質は「ブラックメタル」でした。ブラックメタルを素材に使用した様々な「制振グッズ」が発売されていますが、いずれも効果が確実で人気も高いようです。しかし、このブラックメタルでは「響きの調和」という部分に若干の問題が残ります。(もしブラックメタルのインシュレーターの表面にマークをつけて方向がわかるようにして、インシュレーターの方向を90度程度回転させれば、音の広がり方などが変わることがわかるかも知れません)
そこで、「響きの調和」を重視している製品として注目しているのが、「ローゼン・クランツ」のインシュレーターです。この製品は、強度が十分にあり響きも美しい「真鍮」を母体とし、真鍮と真鍮の間に「極薄いハンダの層」を設け、その厚さを1/100mmの精度でチューニングすることで、「振動吸収量」が調整されています。さらにローゼン・クランツ製品は「素材の響きの方向と響きの中心」を一致させることで素材固有の鳴きを大幅に低減させる工夫まで怠っていません。これで(1)と(2)の条件は満たしました。
次に「響きの調和」という命題に対して、ローゼンクランツ製品は、金属の水平垂直の響きの方向を管理するという方法でこれをクリアーしています。これらすべての条件を、高次元で満たしたローゼン・クランツのインシュレーターの音質が、同種の製品の中でも飛び抜けて優秀なのはそのためです。
また、AIRBOW製品の中で、その動作が最も楽器に近い波動ツィーターの「脚」は、他の製品よりも音質に遙かに大きな影響を与えるため、このローゼンクランツのインシュレーターを採用しています。
廉価でも高音質を楽しみたいという、ユーザーの要望に応えてCLT-2の脚と同時に開発(同時開発により開発費のコストが低減できます)されたのが、「ローゼンクランツPB-BABY」です。その形状は「音の響きを調和させる」ため、素材の中での音の広がりを十分に配慮した上で、入念な試聴により決定されました。もちろん、形状だけではなく真鍮の水平及び垂直方向の響きも完全に管理されて生産されるため、見かけは厚みのあるただの真鍮のコインのような感じですが、その音質は同価格の他メーカーのインシュレーターとは比べものにならないほど優れているのです。
しかし、厳しい管理工程のすべてが、文字通り人間の手によって行われるローゼンクランツのインシュレーターの工法では、BABYよりさらに廉価な製品を作ることが困難なため、さらに廉価な製品として「木材」を材料にしたインシュレーターの企画をローゼンクランツに依頼したところ、「現在の所、天然木を材料にしたインシュレーターは考えていない」ということでした。
そこで「ローゼンクランツのインシュレーターから学んだ、響きが調和する最適な形状を持つ木製のインシュレーターをAIRBOWブランドで製作しても良いか?」と尋ねたところ、貝崎さんの快諾が得られたので、「ローゼンクランツの形状を持つ黒檀削りだし」のインシュレーターをAIRBOW製品として2001年6月より発売しています。(WOOD-BOY 2,000/1個) この製品は、超高性能を出来るだけ安く提供するため凝った作りの合成材料ではなく「資質の良い天然素材」を材料にし、様々な素材をテストした結果、強度が高く嫌な響きを出さない「良質な黒檀」を選び出しました。ただし、天然黒檀とはいっても、この製品に使用しているのは、伐採後5年以上乾燥させた非常に良質な黒檀です。
そして、「響きの調和」を計るために何種類かの形状をテストしましたが、結局木製でもローゼンクランツ製品と同じような形状(ローゼンクランツ承認済み・無断コピーではありません)がベストでした。結果としてインシュレーターにより響きの調和を計ろうとするなら、形状は材質に関係なく「ローゼンクランツ型」に行き着くということを再確認することにもなりました。
さすがにこの価格で方向性まではチューニングできませんでしたが、「かすかに見える木目」の方向を揃えることで、この問題に対処することができます。(この素材の方向性による音質の変化は、金属よりも素材の不均一性が高い「木材」を使用しているため、比較的大きくあらわれます)
天然素材の長所を生かし、数多くの試作より形状の最適化が図られたこのインシュレータは、音質改善効果が大きく、また設置位置などによる音質の差が少ないので使いやすいという特徴を持っています。ねらい通り、入門者をはじめ多くのユーザーに自信を持ってお勧めできる「逸品」に仕上がりました。もし、この製品でインシュレーターの重要性にお気づきになられたら、是非ともこの製品が「ひな型にしているローゼンクランツ製品」をお試しください。さらに大きな満足が得られるはずです。
インシュレータの設置方向
さて、最適なオーディオ・ボードとインシュレーターの選び方はわかりました。では、効果的なインシュレーターの設置方法を考えましょう。
左図のように、響きは一点から自然に広がるように入るのが理想です。このような振動の伝播では、頂点から入った「響き」が反射して戻るときにも「頂点」から戻る(中央図)ため、「響きに濁り」が生じにくいのです。しかし、これを逆にすると右図のように響きが入った所にきちんと戻らないことが原因となり、音を濁らせる場合があります。 しかし、このモデルはあくまでも理想です。「重量のある筐体」や「木製の筐体(スピーカーなど)」では、接触面積の小ささが災いし、強度的な問題で左図のような形にインシュレーターを設置することができない場合があります。また、円筒状や立方、直方体などのインシュレータにはとがった部分がなく、右図のように、「平面同士」を接触させ、筐体を支えなくてはなりません。
そんな時には、右図の円錐の底面に相当する「インシュレーターと筐体の接触面」に「がたつき」が生じないように、できるだけ密着するよう注意しながら設置してください。がたつきがあると、その部分で音が反射したり、歪んだりして音を濁らせる原因となってしまうのです。
3点支持が有利
よくインシュレーターを3点で使用すればよいのか、あるいは4点がよいのかという相談を受けることがあります。結論は、ほぼどのような場合でも3点が有利です。なぜなら、3点支持では、3つのインシュレーターへ均一に加重が分配されるので機器の重心が移動せず響きが安定するからなのです。
4点支持では筐体が振動することで、各々のインシュレーターへの加重が変化し、機器の重心位置が定まらず不安定になってしまいます。そのため、響きの中心位置と重心位置の関係が安定せず、機器の響きの調和に悪影響を及ぼして音を濁らせる原因となるのです。どうしても置けない場合を除いて、インシュレーターは、3点支持がお薦めです。
しかし、インシュレーターを3点にする場合には、3角の頂点の方向をどのようにするか決めなくてはいけません。
響きの中心位置(振動モーメントの中心)とインシュレーターの位置関係は、音響エネルギーの生成方向に非常に大きな影響を与えています。音響エネルギーは中心位置からインシュレーターの方向へ向かって「抜けるように進んでゆく」とお考えください。これが、頂点の方向を決めるときのヒントになります。
例えば、スピーカーを3点支持する場合のインシュレーターの設置位置と、音の広がり方向の関係について説明しましょう。まず三角形の頂点がリスナー側(インシュレーターは前一点、後ろ二点)に向いている場合には、音場はリスナーを頂点とする二等辺三角形(正三角形)の形に展開されます。ボーカルや楽器の位置を前に出したい場合には、このような設置方法がお薦めです。 逆にインシュレーターを前二点、後ろ一点に使用した場合は、リスナーを底辺にするように逆三角形を描くように音場が広がります。スピーカーの後ろに音場を展開し、奥行き感を出したい時には、こちらの設置法がお薦めです。このインシュレーターの設置位置と重心位置との関係は、アンプやCDプレーヤーにもある程度適用が可能です。
インシュレーターの設置位置と音の広がりとの関係
上側がリスナーだとすると、左の置き方で音は前方に、右の置き方では音は左右に広がります。
最適なインシュレータの設置位置
ギターやバイオリンの弦が振動する様子はご存じだと思います。全体が一度に前後に動くのではなくて、両端あるいは全体の長さが割り切れる位置は静止しており、その場所を振動の基点として弦は振動しています。弦のように細長いものではなく、シンバルや筐体の底板のような平板が振動するときにも、弦の振動と同じように、「振動する場所」と「振動しない場所」にわかれています。この時、静止した振動の基点となる場所が振動の「節」と呼ばれています。
節」は振動の基点なのでそこを打撃した場合、与えられた振動(運動)エネルギーは、「最大の効率で一瞬にして振動体全体」に広がります。すなわち「節」を振動させるためには「振動体全体が前後に振動するほどの大きなエネルギー」を加えないといけないということなのです。つまり、この一番動きにくいポイント(一瞬の打撃で素材すべてを動かすのは難しい)である「節」に打撃を与えた場合は、最短の時間で打撃エネルギーが分散するため、素材自体の音はあまり響かずコツンと堅い音がして響きも短時間で消えてしまいます。
この「節」に正確にインシュレーターを設置すれば、筐体の減衰力が最大限に発揮されると共に、振動エネルギーの偏りから生じる「不快な共振」の発生が最小限におさえられ、機器の響きが綺麗に透き通り、明瞭度や音の広がりが大きく改善されるのです。インシュレーターは、この「節」に設置しないと音質向上効果が望めないばかりか、逆に音を悪くしてしまうことがあります。オーディオ機器の脚が取り付けられている底板や、スピーカーの底板、筐体を構成するパネルなど、あらゆる素材に振動の「節」が複数存在しますが、この「節」を見つけるのは比較的容易です。素材に打撃を与えて一番響きの堅い位置(一番響かない位置)を探せばよいのです。拳や鉛筆などの先の尖ったもので底板をコツコツと叩きながら、響きが最も早く収束する位置(一番詰まった音のする所)が見つかったら、そこが「振動の節」なのです。 「節」と「節」の間には、素材が最も大きな振幅を繰り返す場所があります。これを「振動の腹」と呼んでいます。こういう位置に脚や回路を支える柱を取り付けると音を濁らせるので、極力避けなければいけません。逆に、レゾナンスチップなどの「振動を抑制するアクセサリー」なら、この「腹」に設置するのがベストです。
筐体の振動の「節」が、良質なインシュレーターで固定されれば「音の芯」と「残響成分」が綺麗に分離し、音楽は澄みきった広がりを持って非常に繊細に聞こえるようになるのです。
細やかな配慮で音は10倍良くなる
音を消さない配慮が大切
このような細かな配慮を物理的にも電気的にも行って、壊れやすいものを取り出すようにCDディスクから音楽信号を読み出せば「現行CDソフトですら人間が聴きとれるほぼすべての情報」が記録されているに近いと断言出来るほど、驚くべき情報量の音が収録されています。それが理想的に取り出された状態では、部屋の広さに関わらず、まるでプラネタリウムの中にいるように透明で歪みの全くない空間が出現し、リスナーは360度方向から降ってくる音に包み込まれるような感覚にとらわれます。
逆に、情報量が向上したといわれるSACDやDVDオーディオでも、こういった細やかな配慮を行わない場合「音質は現行CDソフトの足元にも及ばない」のです。
オーディオの音質向上の鍵は、すでにハードウェアーの進歩に依存する部分よりも、使用環境などの改善に依存する部分の方がすでに大きくなっているように思います。ユーザーの使用環境などを考えず、ハードウェアー優先の技術開発を続けてきたメーカー主導のオーディオ機器の開発や販売が行き詰まる反面、高額なアクセサリーに人気が集中して売れているのがそれを裏付けているのではないでしょうか。
生演奏から得られている経験とオーディオ機器を使った様々な実験により、オーディオの音質劣化の「原因」は、ほぼ究明出来ました。しかし、問題に対する対処法は千差万別であり、「一つの手法ですべてが解決する」などということは絶対にあり得ません。それどころか経験上「音質向上を妨げる最も有害な原因」は、一つの手法に固執するあまり、より重大な音質劣化の原因を見落としたり認めなかったりするケースがほとんどなのです。ブランドや価格、データーや謳い文句は、まったくあてになりません。信頼できるのはあなたの耳と、科学的根拠に基づく確かな理論しかありません。曖昧なものに大金を投資して後悔する前に、頭の中をスッキリと整理しておいて欲しいと願うのです。
俄には信じがたいと思うのですが、あなたがお聞きになっているオーディオ機器は、あなたに聞こえている何倍、場合によっては何十倍もの情報をすでにスピーカーから再現しています。最高級のコンデンサーヘッドホンに匹敵する細やかな音が、すでにスピーカーからも再現されているのです。しかし、エンクロージャー内部での不要な共振や反射、バッフルによる反射や回折、リスニングルームでの反射や回折などに起因する「有害な歪み」により音が濁りに埋もれたり、打ち消されたりして大部分の情報がマスキングされリスナーに届いていないだけなのです。現在のオーディオマニアの90%以上は少なくともオーディオ機器に投資した10%以下の音しか聴いていないと断言しうる確信があります。
インシュレーターの変更や設置方法の検討ですら、驚くほどの音質向上効果が得られるのは、すでにお使いのインシュレーターの設置方法を再検討したり、ミスティックホワイトなどの補助アクセサリーを組み合わせてお使いになればご体験いただけるでしょう。もちろん、スピーカーや電源ケーブル類も大切です。ケーブルでは「S/Aラボのハイエンドホース3.5」などをお試しください。高額な海外製ケーブルの幻想から、スッキリと目覚めることが出来るはずです。
そこで気づいたなら、もっと大きな疑問を持って欲しいのです。インシュレーターやケーブルですらこれほどの改善効果が得られるのだから、「音の濁りに直接作用する部屋のエコーの歪み」を取り去れば、一体どれほどの音質向上効果が得られるのだろうか!?と。