AudioAccessory(オーディオアクセサリー) 115号「僕がまだ学生だった頃」

僅かな時給でバイトして沢山のレコードを目の前に一時間以上悩んで買った一枚。精一杯背伸びして手に入れたダイヤトーンのスピーカーを安物のアンプで鳴らすのが精一杯のシステムで、JBLやマークレビンソンはただの憧れで自分のものになるなんて、ましてやオーディオ屋になるなんて夢にも思わなかった。
今ではもう弾くことはないけれど、20万円のYAMAHAギターよりずっと音が良かった10万円もしないYAIRIがお気に入りで旅行にも一緒に連れて行った。高いもの、ブランド品が必ずしも一番じゃないことをYAIRIは教えてくれた。
大学時代ディスコが流行りで、卒業前の学祭でやったDJ。最終日、ラストナンバーでプレーヤーのベルトが切れ、マイクを持って歌ったサザンオールスターズの勝手にシンドバット。「プレーヤー」と「リスナー」が音で繋がる一瞬の快感。壊れやすいものほど美しいと、ステージに立つミュージシャンの気分が少しわかった。
時と共にお気に入りの歌手は替わっても歌謡曲が一番好きなのは変わらない。ステレオを聴いて気分が乗ると、一緒に歌う癖も変わらない。お金はなかったけど、時間と好奇心だけは有り余るほど溢れていた若い頃。財布の中身はお金持ちには敵わないけど、それを使う知恵なら絶対に負けたくなかった。
それをケチというなら、それは今も全然変わらない。人を喜ばすためなら、お金は惜しまないけれど、車好きなのに外車はまだ買ったことがない。子供は大学になったけど、まだ小さなマンションに住んでいる。社長になっても過度な贅沢はしたくない。自分の原点を見失うのが嫌だから。ありきたりなことを、素晴らしいと思う感性を忘れたくないから。
高いオーディオも売るけど、最初に買ったレコードの重みと喜びは忘れない。誰もが買える安い製品が、高い製品よりずっと好きだ。オーディオは、お金持ちのオモチャじゃないし、人に自慢するためのものでもない。オーディオは、音楽が楽しく聴ければそれでよいのだから。
学生がアルバイトして貯めたお金で手の届くステレオから、高価な製品より美しく、楽しい音楽が流れたらどれほど素敵だろう。YAMAHAギターより安いYAIRIギターの音が良かったという驚きが自分の価値観を変えてしまったように、ブランドと呼ぶにはほど遠い製品から、高級ブランド製品より気持ちの良い音楽が聴ける痛快さを知る大人になって欲しい。
お金よりもそれを生かす知恵にこそずっと大きな価値があることに気づいて欲しい。見えるものより見えないものが、買えるものより買えないものが、本当に価値あるものだと確信できる、心のこもった製品を世に送りたい。
そんなメーカーには出来ないオーディオ。マイナーでなければ貫けない情熱。そのすべての想いをAIRBOWのエントリーシステム「Little cosmos」に込めて発売します。

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