ホームシアター(HOME THEATER) 35号「「感性」は「数字」では表せない。」

最近はあまり見かけませんが、少し前に「○億色の美しさ」というTVのキャッチコピーが多用されていたのをご存じですか?これはテレビやビデオなどのデジタル映像処理回路ICの量子化ビット数が増加すると表示できる色数が増えることをそのままキャッチコピーにしていたのです。少し詳しく説明しましょう。デジタル映像処理回路が「8Bit」なら、光の3原色の「R・G・B」各々が「2の8乗(8Bit)」の階調で表現されることを示します。つまり「量子化ビット数が8Bitの映像処理回路」は、理論上「2の8乗(256)」の「3乗(R・G・B)」=約1600万色が再現可能なのです。この回路を「10Bit処理」にすれば「2の10乗(1024)」の「3乗」=約10億色が再現できることになります。1600万と10億という二つの数字を比べれば、その差がすごく大きく感じます。ただし、これはあくまでも「計算上の理論的な色数」であって、増幅回路や電源回路、ディスプレイパネルの駆動回路などによって「実際に数字通りの色彩が得られる」訳ではありませんから、実際の見た目では、1600万色と10億色に差がなく感じられることもあります。
カタログの「数字」よりも大切なのは「人間が見て色彩がどれだけ鮮やかに再現されるか?」ということなのですが、世界的にも日本人は「数字」の力に非常に弱く(それは、良い意味で数学の教育レベルが高いためでしょうけれど)、お客様が機器を選ばれるときに参考にされるのは、どうしても「カタログの数字」に頼りがちなようです。しかし、すでにお話ししたように「カタログの数字と人間の感性は、ほとんどの場合まったく一致することはない」のです。逆に言えば、カタログが信用できないからこそ、お客様には「製品選び」という楽しみが残されているのです。新製品が発売される度に、新技術が取り入れられる度に、さもそれが「最高」であるように宣伝されていますが、次のカタログにはまた「全然違う新しいこと」が書かれています。そんなに画期的で素晴らしい技術なら、1年もしない間に廃れるのはおかしいと思いませんか?冷静に考えれば信用できないことが明らかな「カタログ」ですが、それでも製品選びのときに「カタログを参考にしている」というのは、ひどく矛盾しているとは思いませんか?
「カタログをタテに新製品ばかり薦めるお店」は、信用できません。たぶんその販売員は「勉強不足」だからです。もし、お客様に本当によい製品、間違いのない製品を心から自信を持ってお薦めしたいと考えるなら、販売員は、最低でも「評論家を越えるぐらいの見識」を身につけておくべきでしょう。独自に勉強を進め「メーカーの嘘」を見抜けるようになればベストです。同時に、できるだけ多くの製品を「販売員自らが納得できるまで試して」その実際の性能を把握し、現在入手可能な製品の中で「どの製品がお客様にとってのベストの選択であるか、かなりの高い確率で正解を導き出せるよう責任を持って把握しておく必要がある」と考えます。
お客様の言いなりに「簡単に付和雷同」したり、「やたらと有名メーカーだから安心」だとか「よく売れているから大丈夫」などの決まり文句を繰り返す、そんな「無責任で軽い販売員」に、お客様の大切な「感性を委ねて長く付き合うホームシアター製品」の選択を任せられますか?まして、それが高額な製品なら、なおさら不安ではありませんか?そう感じられたら、「良いお店」と「信頼できる販売員(信頼できるアドバイザー)」に巡り会えるまで、手間を惜しまずいろんなお店を尋ねてみてください。数は少ないかも知れませんが、そういう「こだわりのお客様」にマッチする専門店が必ず見つかると思います。いいお店や販売員との出会いが、お客様のその後の人生を変えてしまうほど素晴らしい出来事になるかもしれないのですから。

2006年7月 清原 裕介
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