逸品館メルマガ093「企業のエゴにもの申す」

今回のメルマガの主題は「新しいメディアへの移行への疑問」です。私たちが手にする「ディスクメディア」のフォーマットは、大まかに25年ごとに変わるといわれています。
WEBで歴史を調べてみると次のような情報が得られました(詳細を確認していませんので間違いがあるかも知れません)。

  • 1901年:日本で初めて「ロウ管式レコード」が発売。
  • 1929年:エジソンがロウ管式レコードから撤退しレコードは現在と同じ円盤形状に統一。
  • 1955年:デッカが、ステレオ式レコードを発明。
  • 1981年:CDソフトの量産開始。
  • 1982年:SONYから日本初のCDプレーヤーが発売。
  • 1996年:DVDが市場に登場。
  • 1999年:SACDが登場。
  • 2007年:ブルーレイが本格的に市場に導入される。

レコードの発明からSPへの統一、それからLPへの進化、CDの登場とまでは、ほぼ25年周期ですが、SACDの登場はCDの発売から20年とやや短くなっています。驚くべきは、DVDの発売からたった10年でBD(ブルーレイ)が登場したことです。この年表から情報や交通の発達と共に、技術進歩のスピードが加速度的に速まっていることが分かります。
それに比べ収録される音楽や映画は、どれくらい進歩したでしょう?技術ほどはめざましく進歩していないどころか、退化しているようにさえ思えます。文化は科学技術ほどのスピードで変わることはできません。メディアも本来は文化の変化に伴うスピードで変わるべきで、このように急速な変化は望まれません。もちろん、人間はそんなに急速な変化に対応できません。変化のスピードは、経済事情によって加速されているのです。
今年、家電業界はアナログ放送の終了を宣伝し、ハイビジョンへの移行を誘い大型TVとブルーレイレコーダーをかなり売っているようですが、これは消費者が望んだことでしょうか?ハイビジョン放送は望まれていると思いますが、アナログ放送の終了は誰が望んだのでしょう?電波の有効利用と政府の公報はいいますが、本当でしょうか?
奇妙なことにメディアが変遷する20年というのは、特許の期限である申請から20年とほぼ同じです。20年を過ぎると特許の期限は切れて特許収入はなくなります。その収入を求め特許が切れるタイミングで、新しい技術・商品は生み出されます。これは、なにもオーディオやビデオに限ったことではなく、環境破壊の原因とされるフロンガスでさえ、それが禁止されたのはフロンの特許が失効する時期とほぼ一致します。そして代替フロンの特許を持っていたのは、フロンガスの製造元です。自社の生産物を自ら「使えなく」して、代替品で「一儲け」。こういう図式です。地球温暖化ビジネスにもなにやらこれと同じきな臭さを感じます。
オーディオに話を限定しましょう。例えばレコードがCDへと変わったのは「作る側の事情」で「使う側の要求」ではありません。レコードは巨大で材料にもパッケージにも多くの費用がかかります。その上、反り傷などの不良が多く商品としては「問題が多い」ものでした。これに比べCDは量産した場合の制作費がレコードよりも安く、パッケージも小さいので、同じ面積でも売り場にレコードより多くの商品を展示できます。経済効率という観点で判断するなら、CDはレコードよりも遥かに効率の高い優れた商品です。
CDの売り文句は「高音質」でしたが、実際にはCDの音質がレコードよりも優れていたわけではありません。それがより多くの利益を生む商品であったから、レコードはCDに「変えられた」のです。
DVD からBD(ブルーレイ)への変遷も同じです。移行するための最も大きい理由は、コピーが可能なDVDをコピーが不可能なBDに置き換えることなのです。決してユーザーのメリット拡大のためではありません。しかし、メーカー側はメディアと評論家を巻き込んでBDは、画質が良い、音質がよいと盛んに宣伝しています。その姑息なやり方が気に入らないのです。
私はパソコンに興味があって、日経のWin PCを毎月読んでいます。この中にSONY通で知られる某評論家がメディアに関するコラムを書いています。今月号には、NHKが発売したクラシックコンサートのブルーレイディスクを取りあげて、その画質・音質を褒めちぎっていました。彼によれば「ロスレス(非圧縮)」で記録されるBDの音質は、従来の DVDの比ではないそうです。
早速このディスクを検証してみました(このソフトは、製作者からサンプルを頂いていたので買わずに済みました)。検証はプレーヤーに“DENON DVD-3800BD”アンプに“marantz AV8003/MM8003”を使いました。HDMI接続による音質劣化を嫌って、音声はアナログで接続し、画像はHDMIでVictorDLA- HD100に入力しました。スピーカーにはPMCのFB1iを使い、5ch(このソフトは5.0ch録音)で試聴しました。
音が出た瞬間耳を疑いました。とてもとても音が悪かったからです。ラジカセ・・・。それくらいの印象です。同軸デジタルで音声を出力しAIRBOW SR7002/Specialで聞いてみました。安心しました。少なくとも音の良いDVDと同等の音が出たからです。一応付け加えますが、前者の音声フォーマットは「96KHz/24bit、5.0ch」で後者のフォーマットは「48Khz/16bit、2ch」です。単純に情報量(データー量)の比較では、前者と後者には7.5倍もの大きな開きがあります。にもかかわらず、私には後者の方が音が良いと感じたのです。
映像はさすがにDVDよりは綺麗ですが、やはり思ったほどではありません。確認のためAIRBOW UX1Pi/SEでDVDでは最も綺麗な画質で収録されている「恋に落ちたシェイクスピア」と比べてみましたが、少なくともすり替えられても普通の人なら分からない程度の違いしか感じられませんでした。某評論家は、何を言いたかったのでしょう?またしても提灯記事でしょうか?それとも彼は「良い映像」と「いい音」を知らないのでしょうか?それはありません。彼は、いい音も映像もよく知っているはずです。では、いったいどんな装置でそのBDを視聴して「感動」したのでしょう?多くの疑問が残りました。彼が言うように製作者からもこのディスクに関しては、音も絵も最高で従来のブルーレイとは全く違うレベル!と聞いていただけに、本当にがっかりしました。
CDが発売されたときの音質がメーカーが言うほどでもなかったのと同じ現象が「ブルーレイ」でも生じています。その原因はCDがそうであったように、BDというフォーマットにあるのではなく、それを生かし切れないインフラにあるのではないでしょうか?
もう少し詳しく論理的に解説しましょう。映画などで「防犯カメラなどで撮影した解像度の低い映像」からコンピューター処理によって解像度を上げて「見えない部分を見えるようにする」という場面を見ることがあります。これは「補完」という技術によって「記録されていない情報を作り出す」、あるいは「復元する」ことができるからです。アナログでは不可能なこの「補完技術」は、コンピューターの高性能化によって飛躍的に進歩しました。
最近のCDの音質は明らかに初期のSACDを遥かに超え、高級なCDプレーヤーでは、CDとSACDの音質差はさほど感じなくてすむほど、CDの音は良くなっています。これは、レコーディングとデコードの技術、つまりAD変換とDA変換技術の進歩による結果です。更に詳しくいうならデジタルフィルター部分による「アップサンプリング時の補完技術」が大きく進歩したからこそ、成し遂げられた音質の向上なのです。その結果発売当初はレコードよりも明らかに劣っていたCDの音が、現在はレコードに追いつき追い越そうとするレベルまで向上しました。逆にCDを越える音質を実現するという触れ込みで登場したSACD は、CDの音質向上により消えようとしています。
映像に関しても、現在の「高級DVDプレーヤー」のそれは、初期のDVDプレーヤーとは比較にならない程美しく、ハイビジョンに近い映像が見られます。これも「映像アップサンプリング時の補完技術」の進歩によるものです。ブルーレイとの戦いに敗れた東芝は、DVDからBD並の映像を出してみせる!とうそぶいていますが、それは根拠のない話ではありません。
このようにデジタル技術の進歩とは、フォーマットをアップすることではなく、同じフォーマットからよりいい音、美しい映像を取り出せる方向へと大きく進歩しているのです。もし、あなたがDVDからBDと同じ音質、同じ映像を取り出せるDVDプレーヤーがあったとしたら、BDプレーヤーを購入するでしょうか?ソフトはDVDの方が遥かに多く、安く、そしてその気であればコピーもできるのです。どちらがユーザーにとっての利便性が高いかは、言うまでもありません。
この夢のようなDVDプレーヤーが誕生するかどうか?映像については東芝が「可能」だと宣言しています。音質については、多くのメーカーよりも一歩早く AIRBOWがそれを実現しています。現在、AIRBOWが発売しているDVDプレーヤーでCDをかければ、同クラスのピュアオーディオCD/SACDプレーヤーと同等の音でそれを聞くことができます。同じプレーヤーでDVDをかければ、ディスクによってはCDを明らかに上回る音でDVDビデオが観られるのです。
某評論家の話にあった「BDはロスレスだから音が良い」という表現は、正しくありません。ましてBDの最高音質は「192KHz/24bit」というのは技術的にもおかしな話です。なぜなら、映画や音楽を収録する現場での最高収録フォーマットは96KHz/24bitだからです。今回登場したNHK製作の BDも「96Khz/24bitの5.0ch」で収録されています。では、この鳴り物入りのディスクがなぜ「192KHz/24bit」で録音されていないのでしょう?答えは簡単です。192KHz/24bitでコンサートを収録可能なマイクが存在しないからです。
録音に使われるマイクの収録可能な上限周波数は40KHz程度です。それよりも上限の周波数を上げると、マイクのエレメントが小さくなり可聴帯域の音質が悪くなってしまうため、これ以上高い音まで収録できるマイクは測定用を除いて使われません。現場でも一時は「96KHz/24bit」の録音になびいたようですが、今はまた「48KHz/20-24bit」に戻りつつあります。両者の間に明確な音質差が認められないというのがその理由です。現状とはまるでかみ合わないBDの音声「192KHz/24bit」は技術的な要求ではなく、純粋に入るだけ入れたフォーマットにしか過ぎません。「192KHz /24bit」が収録できるから音が良いという言い方は、明らかな間違いです。
DVDのフォーマットはリニアPCMでは「48KHz/16bit」とCDの「44.1KHz/16bit」を僅かに上回ります。にもかかわらず市販の DVDプレーヤーやBDプレーヤーの音がCDよりも芳しくないのは、フォーマット以前の問題です。単純に「プレーヤーの音が悪い」それだけです。音が悪い理由は色々ありますが、メーカーにはそれを改善する努力が感じられません。もし、彼らがそういう努力をしていたとすればAIRBOWのDVDプレーヤーは生まれなかったのですから。
CDプレーヤーやアンプと言ったオーディオ製品は、電源ケーブルや信号ケーブルをハイグレード化すると音が良くなることが知られています。もちろん、ケーブルを買えたところで「カタログデーター」が良くなるわけではありません。言い換えれば「カタログデーター」と音質は無関係と言うことです。AIRBOW 製品はこのようなメーカーが力を入れていない「数字にならない部分」を丹念に手作業で修正し、パーツを交換することで音質を向上させています。 AIRBOW製品の音がメーカー品に比べて良いのは、科学的かつ技術的な裏付けと経験に基づく地道な努力の結果なのです。
話を本題に戻しましょう。ハイビジョン放送の開始は歓迎されましたが、アナログ放送の終了は求められていません。ではなぜアナログ放送は終了するのでしょう?それは経済効果を上げるためです。意図的にアナログ放送を終了することでデジタル家電の売り上げを伸ばすのが目的です。
メーカーがBDを宣伝するのも同じ理由です。ユーザーのためではありません。しかし、その結果早くもDVDが「切り捨てられ」つつあります。BDが儲かるから、儲からない高級DVDプレーヤーを切り捨てる。これは、企業のエゴでしかありません。たった数年前までは、あれほど力を入れていた高級DVDプレーヤーがBDの登場で消し去られる。それが問題なのです。あろうことかオーディオ専門メーカーのDENONとMARANTZのHPからもDVDプレーヤーのラインナップが消えています。私から見ればユーザーへの裏切りであり、専門メーカーとして自殺行為に感じられます。彼らこそDVDでBD並の画質とCDを越える音質を実現する DVDプレーヤーをラインナップするべきだと思うからです。しかし、それを安く作るには、良質なDVDメカニズムの供給という家電大メーカーの協力が必要です。Esotericは自社メカでそれに挑戦していますが、量産できないという理由でBDプレーヤーよりもかなり高価な製品になっています。しかし、それを実現しようという努力は高く評価すべきです。
BDが褒められてそれが台頭するのは、まったくかまわないことです。そして、それらがDVDに変わる新しい喜びを与えてくれるなら、それは素晴らしいことです。しかし、現実はそうではありません。BDはまったく中途半端です。そんないい加減な新製品と引き替えに、彼らが奪おうとしているのは成熟しつつある、素晴らしいDVDプレーヤーなのです。企業のエゴによって、またしても私たちマニアが支えてきた「メディア(レコード、CD、SACD、DVD)の火を(特に高級DVDプレーヤーの生産を)消されるのは我慢できません。
私は、BDを否定するのではありません。ただマニア向けの高級DVDプレーヤーも同時に(5-20万円クラス)生産継続して欲しいのです。それらの機種が企業に利益を生まなくても(決してそんなことはないと思いますが)ユーザーはそれを選択することで、BDよりうんと安くタイトルがも圧倒的に多いDVD を、BDより少し落ちる画質と同等以上の音質で楽しむことができるからです。

P.S.

AIRBOWのDVDプレーヤーの音がCDよりも良いというこのメルマガの内容が本当かどうかは、10月に行われるハイエンドショウトウキョウの逸品館のブースでご確認頂けます。今回のイベントでは、逸品館らしい趣向を凝らした様々な種類のデモを行う予定ですが、その中には、もちろんCD/SACD /DVD/BDのあらゆるメディアの鳴らし比べが入っています。最新情報を集めながら、イベントをご期待に添える有意義で楽しいものにできるよう、準備を頑張っています。

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