逸品館メルマガ329「楽器の音色と言葉の声色」

前回のメルマガでは映画と音楽の関わりについて書いてみました。音と感情には密接な関係があります。言語は思考を正確に伝達するために人類の歴史の中では比較的新しく発達した手段です。言語を持たない高等ほ乳類である霊長類は今も鳴き声をコミュニケーションに使い、鯨やイルカも同様に、歌に似た鳴き声でコミュニケーションを行っていますが、人間も言語を発明する以前は動物と同じように「鳴き声」がコミュニケーションの手段でした。

音楽とは、人間の鳴き声を「楽器」で似せたものだと私は考えています。すべての音には「感情」があります。一般的には、リズム・メロディー・ハーモニーが音楽の三要素とされていますが、私は人間の感情に密接な関連を持つ「楽器そのものの音色の変化」がより重要だと考えています。

言語は音楽とはあまり関連がないと考えられますが、それは違っています。言葉のアクセントや抑揚は、メロディーとリズムそのものです。ハーモニーに相当するものは言語に見いだしにくいですが、「声色」は楽器の「音色」に相当します。「だ・い・す・き」と心の中で考えてください。大好きの対象が、人間なのか動物なのか、あるいはオーディオの音なのか食べ物なのか、その違いで「だ・い・す・き」の「声色」が変わります。「き・ら・い」では、本当に嫌いなのか、好きだけれど嫌いと言っているのかで「声色」はまったく変わります。

言葉でのコミュニケーションは、ある程度の文章の長さと「言語的理解力」が必要です。英語が分からなければ、英語で話しかけられても理解できません。けれど「だ・い・す・き」と「あ・ぶ・な・い!」に使われる「声色」は全く違っているので、「声色」すなわち声の調子で「ある程度の意味」が伝わります。

この「声色」を楽器で似せているのが「音色」です。打楽器は少し難しいかも知れませんが、人間が触れながら音を出すバイオリンなどの弦楽器では、人間の声色よりも多彩な音色を発生させられます。明るい音、暗い音、楽しい音、悲しい音。バイオリンはそれを自由自在に音色で表現することができる楽器です。

私はオーディオ機器の音質リポートに「音色」と言う言葉をよく使います。それがオーディオ機器の「感情表現能力」と密接に関連するからです。アクセントと抑揚が明確な「語り手」と文章を棒読みする「語り手」のどちらが読み上げる物語が楽しいか?オーディオ機器の評価はそれと似ています。どれだけ音が細かくても、音色の変化に乏しいオーディオ機器が奏でる音楽は単調です。私は、感情豊かな音を出すオーディオ機器を好みます。それは、機器が持つ再生周波数帯域(低音~高音がどれだけ出せるか)や解像度(細かい音がどれだけ明瞭に聞こえるか)よりも遙かに大切です。例え息づかいが感じられるほどの高性能なオーディオ機器でも、その息づかいがロボットのように聞こえるなら、楽器を奏でる奏者の情感が伝わらなければ、最初は良くても遠からずその機器には「飽きる」はずです。

オーディオ機器の「聞こえる性能」をデモンストレーションすることは容易く、「聞こえない」感情を伝える性能をデモンストレーションすることはとても難しいのです。だから、機器を試聴なさる時には、是非お店を選んで欲しいと思うのです。

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