AudioAccessory(オーディオアクセサリー) 121号「いい音とは?」

ここしばらくは、良い音の機器の紹介や四方山話ばかりで「いい音」についての話題があまりなかったので、今回は久しぶりに「いい音」について書いてみたいと思う。「いい音」とは、どんな音なのか?人によってその定義は様々だと思うのが普通だが、私はそうではないと考える。
私たちは、主に「言語」でコミュニケーションするが、動物は「鳴き声」によってコミュニケーションをする。動物の世界では「鳴き声」が「言語」に相当するのだ。では、人は「鳴き声」つまり「音」でコミュニケーションできないのだろうか?そんなことはない。例えば、とても驚いたり、感極まったときには、私たちも「言葉」を失って「声」しか出なくなる。このときの「声」こそ、言語ではないコミュニケーションを人間が「失っていない」証拠である。人間も落ち着いているときには「言葉」で話せても、とっさのときには「声」しかでないのだ。それは「言葉」を使うためには「感じたことを言語へ変える時間」が必要だからに違いなく、「感動(驚き)」を伝える時「翻訳」が必要ない「声」は、瞬時に出ても「翻訳」が必要な「言葉」は出ないのだろう。もちろん「イタッ!」・「アツッ!」などのような短い言葉はとっさにも出るが、広義的にはそれも「叫び声の一種」と考えられる。とにかく「文法」を持ち「ある程度の長さを記憶してからでないと理解できない言葉」と「一瞬の音の変化だけで意味が伝わる鳴き声」が根本的に異なるのは間違いない。また、こうも考えられる。時折、私たちは感じたことを「言葉」にできないことがあるが、それは「感動(驚き)」を伝えるための「適当な言語」が見つからないためではないだろうか?「言葉」は、万能のコミュニケーションではなかったのだ。
この「未完成」あるいは「不十分」な「言葉」によるコミュニケーションを補うため、あるいは私たちの心の最も深い部分で生まれる「激しい感情の動き」をよりストレートに伝えるため「鳴き声」の名残として、あるいはそれが発展した形として生まれたのが「音楽」ではないだろうか?理性によって生みだされたコミュニケーションが「言語」であるとすれば、感情や本能によって生み出されたコミュニケーションが「音楽」なのだ。だからこそ「音楽」は「感動」を伝える時「言語」よりも遙かに力強く饒舌なのだ。
「音楽」は「言語」よりもストレートに感動を伝える。「音楽」は、「音」の集合体である。つまり「音」は「感動」と密接な関連を持ち、さらに「音」は「一瞬の変化」で「感動」を正確に伝えることができるのだ。おわかりになるだろうか?「音楽」で使われる「音」は、でたらめに選ばれているのではない。「特定の感動」を呼び覚ますために、あるいはそれを伝えるために「特定の音」が使われるのだ。だからこそ「いい音」=「人を心地よくする音」は、誰にとっても「同じ音」だと結論づけられる。これが、「いい音」は万人に共通であると私が考える根拠である。
では、音楽再生における「いい音」は、どんな音なのだろう?人はただダラダラと音楽を聴いているのではない。音楽によって心が動き、感動するために聴いているのだから、すこしでも多く、少しでも大きな「感動」をもたらす「音」が「いい音」と言うことになるだろう。ハッとするような鮮やかさや心に浸みてくるような浸透力と持ち、聞き手の心を自在に操ってしまうほどの「いい音」。はたして、それはどのような種類の音なのだろう?
少し話を戻す。音は瞬間の変化で感動(感情)と伝えると説明した。ということは、音は変化しなければ何も伝わらないのだろうか?事実、深夜放送が終わった後に流れるテストトーンは全くの無表情で「音楽」とはほど遠く感じられる。逆に木々を揺らす風の音や雨の音など、単調な繰り返しに思えても、それらが人の心を揺さぶることは、歌の文句に度々「風」や「雨」が登場することからも明らかだ。とくに「風」は目に見えないから、私たちは「風」を「音」として捉え、その「音の変化」に風情を見いだしているのである。
結論を述べる。音の変化が感情の動きを伝えるなら、大きな音の変化は、より大きな感情の動きを呼び起こすだろう。より多彩に、より饒舌に感情の動きを伝えようとするなら、「音」はできるだけ「素早く」、そして「大きく変化」しなければならないはずだ。そう考えれば、「継続的な変化の大きさ(音量の大小)」ではなくて「瞬間的な変化の大きさ(レスポンス)」がより重要だと理解できるはずだ。今、ほとんどの日本人が触れる「音楽」は、生(ライブ)ではなく再生音楽だが、ここでも「いい音」の定義は変わらない。単調な音よりも変化の激しい音が、より大きく複雑な心の動きを伝えられる。つまり、ステレオにとっても重要なのは「レスポンス」なのだ。さらに言うなら、聞き取れないような小さな音の変化まで完全に再生きれば「聞き取れないような場の雰囲気」まで克明に再現される。これは今までの私の経験と照らし合わせても間違いがない。
さて、ここからはコマーシャルになるから、必要がなければ読み流してくださってかまわない。レスポンスこそオーディオの命と考えて、私が作り出したのが「AIRBOW」である。「生音」のように素早く立ち上がり、無駄な余韻を残さず消える、AIRBOWのサウンドは「生音と同じレスポンス」を持っているから、当然それらに触れる機会の多い「音楽家」や「生の音楽をよく聴く人」からの評価が高い。しかし、それと同時に「家族」や「同居人(失礼)」からの評価も非常に高いのが特徴だ。それは、雑誌や価格などの先入観に汚染されていない彼らの耳には、癖がなく「普段聞き慣れている自然ないい音」に近いAIRBOWのサウンドが新鮮に聞こえるからに違いない。 そのAIRBOWの中でも、私が特にお薦めしたいのが「IMAGE11/KAI-S」という4万円(ペア)に満たない小型スピーカーである。この製品について、この紙面で説明はしない。なぜなら、それは聞かなければ絶対に信じられないからだ。そして、試聴時にはできるだけ「KRYPTON-PROのMGTをベースとした専用スタンド」を使って欲しい。そのスタンドのあるなしで、小型スピーカーの音に決定的な差が出るからだ。


Audio Accessory (オーディオ アクセサリー) 2006年 07月号 [雑誌]


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