AudioAccessory(オーディオアクセサリー) 123号「“くふう”という楽しみ方」

オーディオアクセサリーを購入するとき、何を参考にするだろう?まず、間違いなく「価格」だと思う。高い製品は、安い製品よりも「価格の差」だけ確実によいと思いこむのがユーザーの心理だ。だが、それは明らかに間違っている。その理由を言い出せばきりがなくなるので、ただ一つだけその理由を説明する。商品の価格を決めているのは消費者ではない。メーカー標準価格という言葉からもわかるように、商品の価格を決めているのは「メーカー(作る側)」なのだ。もし、この作る側にきちんとした音に対する見識が備わっているとすれば問題は生じないのだが、音に対する評価は非常に曖昧かつ主観的で「料理の味比べ」と同じように難しい。
話は変わるが「人気者で行こう」という番組の中に「芸能人格付けチェック」という企画があったのをご存じの方も多いと思う。例えば「高級な食材」と「ありきたりの安い食材」、「10万円の楽器」と「1000万円の楽器」といった「味の違い」や「音の違い」、あるいは「プロの楽団」と「学生の楽団」など機器で測定して数値として定量化できない曖昧なものの良否、つまり人間の感覚だけが良否判断の材料となる様々なものを「ブラインド」で芸能人に判定させ、その判断が正しいかどうかをチェックするという企画だ。茶の間やリビングでTVを観ながら、その番組の中に入って自分自身の良否が正しいかどうか?チェックされた方もいらっしゃるだろう。私も「音」や「演奏」に関しては、自分自身の格付けチェックを行ってみたが、それを職業としているにもかかわらず正解率は100%ではなかった。もちろん、100%には非常に近かったし、TVの音が悪い、録音の方法が悪いなど、申し開きしたい部分もあるにはあるが、重要なのは正解率が100%ではなかったと言うことだ。これが、普通の人なら正解率はもっと低いだろうと思う。実際、家族の正解率は私よりは遙かに低かった。
もし、これが「ブラインド」でなかったらどうだろう?あるいは「良いものに安い値段」、「悪いものに高い値段」を付けて、一般人の格付けチェックをしたらどうだろう?実験を行うまでもなく、答えは恐ろしいことになるだろう。つまり、私が言いたいのは「高い値段の製品」の音は「盲目的に良く聞こえる」あるいは、価格が高いから良いと信じ込んでしまうという、音の聞き分けに与える心理的な影響の大きさなのだ。私がこの職業を選んだ切っ掛けは、価格と性能の関係が一番でたらめだったからだ。その後20年近く、この業種に携わっているが未だに「価格差ひと桁の性能は誤差」だと感じている。言い換えれば、未だに1万円と10万円、10万円と100万円の製品の差は「聞いてみないとわからない」と考えている。だからこそ、私は「前評判」や「メーカーの宣伝」だけでものを売ることはしない。自分がしっかり聞いて、それが「価格に値する」あるいは「価格を凌駕する」と確認できないと販売しない。逸品館が新しい製品をどこよりも早く薦めていることがあるとすれば、それはどこより早くその製品をテストする機会に恵まれ、結果が良好だったときに限られる。
オーディオアクセサリーにかかわらず、オーディオ製品は星の数ほど世の中に溢れている。高額なケーブルなどのアクセサリーが売れると見るや、雨後の竹の子のように知りもしないメーカーから高額品が目白押しに発売される。そんな製品ですら、あなたは高いからという理由だけで興味を持ち、購入対象として考えるだろう。それは、明らかな間違いだ。新しいものや高いものこそ騙されないように細心の注意を払って品定めすべきなのだ。もう一つ注意して欲しいのは、「人と違うものを欲しがらない」ということだ。人が良いというものを否定して、それ以上のものを探すのは、なぜだろう?自己満足できるから?人に自慢できるから?まあ、それは前向きなので決して悪くはないけれど、欲をかきすぎるとやはり「罠」にはまりやすくなる。自分自身の欲が、自分の目を曇らせるからだ。世の中は危険がいっぱいで特に「高いものをありがたがるお客様」がいらっしゃるところには、密に群がるアリのように「詐欺まがいのことを平気でやる金の亡者」が集まってくる。そういう奴らに限って「見かけだけは立派」だから、よけいにたちが悪い。くれぐれも騙されないように注意だけは忘れないで欲しい。
これらの大きな落とし穴に落ちないためには「自分自身の格付けランキングを上げる」しかない。自分自身で、確実な良否判断が出来れば、騙されることはなくなるだろう。そのための方法とは?耳を鍛えるのは結構手間がかかる。オーディオを買うために貯金するのと同じくらいの努力が必要かも知れないが、最短の方法は「いい音」を知ることである。説明するために、話を食べ物に置き換える。「本当に上手いもの」を食って「その味を覚えていた」としたら、それからは「そうでないもの」は簡単に見分けが付く。もちろん、そのうまさを覚えるためには、何度か繰り返し「本当に上手いもの」を食べる必要があるだろう。音を覚えるのも、音の聞き分けが出来るようになるのも、まさに味と同じだ。いくら高くても良くない音は、どんなに聞いても耳は良くならない。逆に、本当にいい音のものを聞いているとよくない音はすぐにわかるようになる。同時に体がそれを受け付けなくなるだろう。
今年も秋に、多くのオーディオ・ショウが開催される。だが私の耳にいい音に聞こえるのは、多く見積もっても1/10かそれ以下でしかない。つまり90%以上は、いくら高くても悪い音にしか聞こえないのだ。だから、そんな音を聞いていても耳はちっとも良くならない。ほとんどの人がいい音を出せない、出していない状況の中でいい音を知るためにはどうすればいいのだろう?それはとても難しいが、私の話に興味を持たれたなら、まず逸品館のホームページをご覧いただきたい。そこには、10年近く思いつくままに私が書いた「音を確実に良くする方法」が読み切れないほど、やりつくせないほど沢山掲載されている。製品は星の数ほどと書いたが、それを使いこなす方法や「くふう」は、それこそ無限にある。その「無限の工夫」を楽しむのがオーディオという趣味の王道である。秋~冬の夜は長い。時間はたっぷりある。さあ、今こそ「くふう」という知的な楽しみをめいっぱい味わおうではないか!


Audio Accessory (オーディオ アクセサリー) 2007年 01月号 [雑誌]


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